天文文化学の新展開:数理的手法の導入で文化史と科学論から自然観を捉える研究の加速
(Advancements in the Field of Cultural Studies of Astronomy: Fostering cultural, historical, and scientific understanding of the view of nature applying mathematical approaches)
課題番号:24K21170
2024年度,表記の科学研究費基金に採択されました.期間は5年.
本ページでは,目的,着想にいたった経緯などについて紹介します.成果はこちら.
代表 松浦清 (大阪工業大学 工学部)
分担 真貝寿明 (大阪工業大学 情報科学部)
分担 井村誠 (大阪工業大学 知的財産学部)
分担 嘉数次人 (大阪市立科学館)
分担 株本訓久 (武庫川女子大学 社会情報学部)
分担 清水健 (東京国立博物館)
分担 鳥居隆 (大阪工業大学 R&D学部)
分担 横山恵理 (大阪工業大学 情報科学部)
分担 米田達郎 (大阪工業大学 工学部)
天文現象は古代より人々の生活や文化活動に密接に関わり、文学や美術に広く取り入れられるとともに、現代科学の発端ともなった。我々は、古典籍・美術品・工芸品・遺跡・数式等の中にみられる天文に関わる多様な表現を対象に、文化史と科学論を統合して自然観を考察する「天文文化学」(Cultural Studies of Astronomy) と呼ぶ新たな学問分野を推進している。昨年度までの挑戦的研究(萌芽)の研究期間に方向性と研究スタイルを定め、研究者人口の拡大に一定の成果を示すことができている。本申請では、この分野の活性化に向けた次の段階として、伝統的な文献研究に統計解析や数理解析を取り込み、多角的な研究手法を展開する。テーマは、星曼荼羅と仏典の記載に対する古天文学要素の検討、天文観測機器の模型復元、江戸・明治期の日本人の自然観の醸成と昇華など、文理協働のものを多数設定する。年2回開催している専門家向け研究会の規模の拡大、データベース構築など、この研究分野の基盤を整えるとともに、研究成果を博物館や科学館を通じてアウトリーチ活動へと展開させ、リベラルアーツの一翼としての領域を確立させる。
我々は、「天文文化学」と呼ぶ新たな学問分野を、挑戦的研究(萌芽)「天文文化学の創設」(R1-R4年度、課題番号19K21621) にて創始した。R3年度までの3年間の研究成果は、天文学会誌に概略を報告し、研究書籍も出版した。
4年間の研究成果として、我々が新たに定める方向は、『「天文」を軸として,文化史と科学論の議論を通じた自然観(世界・宇宙)の認識』である。細分化されすぎている現在の学問を新たに捉え直し、「総体としての知を確立する」挑戦である(右図)。その活動は、「われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか。」という人間の抱く根源的な問いに対する解の発見に対して、極めて有効な入口を提示するものと考える。
研究分担者には文理を超えた専門家を揃え,従来のフィールド調査、古文書調査、海外文献調査に加え,必要に応じて,画像解析、統計解析、数式計算およびシミュレーション,模型制作へと手法を広げる。研究テーマは、例えば仏教文化遺産の数理的解釈、江戸期や明治期における近代物理学受容のプロセス、多言語表現から探る宇宙の認識論、天文観測ツールの再生などを含み、これらをより多様な視点で有機的に結びつけることにより、次のステージへ継承・発展させる。
研究方法としては、これまで実施してきた「天文文化研究会」の開催の規模を拡大し、これから5年間でこの研究スタイルを骨格の強靱な文理協働へと昇華させる。そして、古典籍・美術品・工芸品・遺跡・数式等も含めて、天文に関係する多様な「天文文化データベース」を作成し、構造的な集積によるコーパス的機能やWeb横断検索的機能もそれに付与して、共同研究を加速させる研究基盤を構築する。また、継続的な出版活動、定期的なアウトリーチ活動、市民協働の調査活動も実施し、研究者連携の枠拡大に向けて情報発信をおこなう。当面は日本国内の文化遺産の解読を中心とするが、5年後には東アジア圏に研究対象を広げる。
歴史の流れの中で人間を多角的に捉え直そうとするとき、天文を軸とするアプローチが有効であることを、これまで実施してきた「天文文化研究会」の議論を通して学んだ。宇宙と人類の茫洋とした関係は、具体的な物証に的を絞って理解しようとするとき、歴史や文化の側面に、研究者の個別のフィールドを超えて具体的な様相を顕現する。その物証とは、絵画や文字や自然法則などの文化遺産である。それらを、異なる研究領域の研究者同士が既存の研究領域の枠組みを超えて、情報交換しながら研究交流することを積み重ねることで、天文と人間の関わりを複眼的に、また真に総合的に理解する可能性が広がるとの確信を得た。そこで、各研究者が文化遺産としての各種物証を研究素材として共有し、異なった視点によって考察する新たな研究領域「天文文化学」の創始を実施した。
「天文文化研究会」を開催して率直に意見を交換するプロセスから、この研究領域が、文化史・科学論・自然観の変遷および再構築を目指すうえで重要な位置にあることが見えてきた。この分野は、専門研究者だけではなく、一般市民が興味関心を抱くテーマにも関連しており、研究者から一般市民への一方的なアウトリーチに留まらず、市民を巻き込んだ共同調査の実施も可能な潜在的な知的原野であることも認識している。
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