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君に薦める一冊の本

『 ロボット工学ハンドブック (第3版)

『 ロボット工学ハンドブック (第3版)

編者:日本ロボット学会

ロボティクス&デザイン工学部 ロボット工学科野田 哲男 先生推薦

私の読書スタイルは“濫読”である。よって一冊だけ紹介せよといわれると非常に困る。思い返せば少年時代から、とにかくなんでも読んで、自分の家に子供が読めるものがなくなったら、遊びに行った友人の部屋の本をつい読み始めてしまい、友人たちが外遊びに出ても一人そのまま日が落ちても読み続けているところを家人に発見され驚かれたものである。やがて小学生向けの学習百科事典を端から読み始め、ところどころ飛ばしながらも一応読破に至る。たしか全12巻で、第6巻 動物・植物、第7巻 気象・天文といったテーマ別の編纂であった。これらの経験を通じて自身の読書スタイルが確立していったようである。

このような私が一冊を薦めるとしたら?勘の良い諸君はすでに伏線を回収しはじめているに違いない。つまりは分厚い博物的専門書になる。もったいぶらずに紹介しよう。

【日本ロボット学会編:“ロボット工学ハンドブック第3版”、コロナ社、2023】

しかしロボット工学の本を薦めることが目的ではない。説明を聞いてほしい。同書は約260名の著者により数年をかけた改訂の構想・執筆・編集作業が行われ、ようやく前刊から18年ぶりに日の目を見た。今回の改訂で執筆陣はそれまでの「ロボット工学」ではなく「ロボット学」の体系化を試みた。そのため自然科学の側面からの論述を書き換えたことはもちろん、哲学・文学・文化学・宗教学といった人文科学の側面、法学・経済学・経営学・社会学といった社会科学の側面からの論述を書き換え多くのことを書き加えていった。当然分厚くB5判1,086頁、41,800円もする。その分これ一冊で疑似濫読できる。

この改訂はロボットという工学部が取り扱う人工物の一つさえを理解し活用するために必要な学問体系が、2020年代に入って自然・人文・社会の各分野にひろがっていることを示している。ひらたい言い方をすれば、自分の専門だけを極めていれば飯が喰える時代ではないということになる。よりストレートにいえば自分の専門を極めるとともに多くの分野をも浅深はともかく同時に手中に収めよ、ということである。そのためには“濫読”が必要になる。しかもここ数年で紙の書物だけでなく、WWWサイト、電子書籍、動画サイトなど、何を読んで何を読まないかを選択する困難さが高まっている。私の学生の頃は図書館や大きな書店に行けばいいだけだった。大変な時代になってしまったが逃れることはできない。

もう一つ、回収していない伏線がある。それは一心不乱に“長時間集中し続ける”ということで、ものごとを広くあるいは深く理解するためには必至の所作である。分厚い本、難解な本を紹介する理由の2つめがここにある。みなさん短い動画は好きですか?講義動画は2倍速再生ですか?しかし学問はそれでは理解できない。学問を理解したということは学習時とは異なる場面で理論の本質を応用できるということである。そして学問は複雑で理論の本質にたどり着くまでには想像以上の長い時間がかかる。

さて巷で流行りのChatGPTに同書の悪いところを聞いてみた。「この本の悪いところは書籍としてはかなり大きく重たいため、持ち運びがしにくいことです」「この本は専門家向けであり、初心者には向いていないという指摘があります」これらが私が同書を薦めた理由であることを汲み取って“長時間集中”し“濫読”し博覧強記を目指していただきたい。

最後に、私の濫読習慣は今どうなっているのか。本の話題が出たらその場でポチることも多く、新しい立ち回り先では海外含め必ず本屋や図書館を探す、ミュージアムショップでは書物を漁る…ということを報告しつつ筆を擱く。

※図書館報『ぱぴろにくす』121号にご寄稿いただきました。

請求記号・資料ID

大宮本館
548.3||R 12200993
梅田分館
548.3||R 72300010
枚方分館
R548.3||R 82200579