2008 Nov 5  於 豊中市伊丹市クリーンランド

豊中市伊丹市クリーンランドをめぐる課題と展望

(NPO法人 豊中・伊丹 環境政策フォーラム 設立に際して行った講演です)
 
渡辺 信久(大阪工業大学工学部教授)
 

1 廃棄物処理事業の民活への流れ

 
廃棄物の処理は、1900年の汚物掃除法以来、市町村の役割であるとされてきた。しかし、1970年の「産業廃棄物」の規定、2000年前後の「品目別リサイクル」などにより、市町村の役割は限定的なものに移りつつある。この流れの先を見通すと、一般廃棄物処理事業への民間の参入は避けられないであろう。ごみ処理の民活というと、唐突な印象があるかも知れないが、行政の効率化という近年の新しい目標のみならず、40年前からの流れであることを否定できない。
 
現在は過渡期である。PFI法における「公共施設等」は施設を指しており、事業ではない。すなわち、現在の枠組で廃棄物処理をPFI等で行えば、「施設は民間だが収集は官」という構造になる可能性が高い。
 
おそらく、「搬入されるごみの質が最初の契約と違う(だから、処理がうまくいかない)」とか、「施設の維持・運転に関わる費用が予想より高くなる(官は技術面で主導できくなるであろうから「言い値」に従わざるを得ない)」などのトラブルが予想される。
 
このトラブルは、行政がこれから悩まされ、批判されることによって、初めて解決に動きだす種類のものである。行政の問題解決能力を大いに発揮していただきたい。
 

2 なぜ、市民は廃棄物処理・リサイクル事業に興味を示すのか

 
税金を投じて行われる廃棄物処理・リサイクル事業に、市民が興味を示して、意見を持つことは至極当然のことである。衛生的な生活環境は自らの財産の一部であり、将来にわたって持続可能な社会を築くことは共通の目的であり、さらにはごみ処理に伴う公害の発生を抑制せねばならない。
 
一方で市民は、ごみ処理の低コスト化にあまり関心がない。仮に、市民がごみ処理ビジネスの株主であって、低コストの実現によって高配当を受け取るのであれば、低コスト化に向けて「物言う株主」になるかも知れない。しかし、現在は配当(もしくは「ごみ処理低コスト化達成減税」)の恩恵を期待できる状況ではない。
 
従って、市民がごみ処理に関心を示す主たる観点は、衛生・持続可能社会・安心安全である。PFI等の民活は、「行政の効率化」という行政管理部門の動機で推進されるものであって、必ずしも、市民の指向ではない。
 

3 自発的モニタリングから理解と信頼へ

 
市民の興味対象が「衛生・持続可能社会・安心安全」であることは、官による直営であっても、民活によるものであっても、変わらない。しばしば、PFI等とモニタリングの関係を説明する際に「民間に任せると、何をするかわからない」という、民間蔑視のような言い回しを耳にすることがある。しかし、官の信用が失墜する事例は枚挙にいとまがない(国民年金、警察など)。そこで、「市民が行政を監視しないといけない」という血気盛んな意見が出ることになるが、これは、行政の怠慢と官僚の増殖につながりかねないので、慎重にならないといけない。
 
市民が良識に従って監視を行うことを、自発的モニタリング(voluntary monitoring)と呼ぶ。ただし市民は専門家ではないので、そのために十分な時間を割くことはできない。ここで、市民と専門家の区別を明確にしておく必要がある。市民とは、その活動を生業(なりわい)とせず、良識に従って自ら考え、行動する者である。専門家はその活動を生業とするものである。知識や技能の優劣をつけるための区分ではないことに注意して欲しい。
 
専門家についてもう少し注釈を加えるならば、その活動を生業としているゆえ、利益の最大化に向かって行動する可能性を持つのである。それでは、NPO法人はどのように位置づけられるのであろうか。しばしば、市民と専門家の中間的なものと位置づけようとする(おだてて責任を押しつけようとする)議論を見かけることがあるが、利益の最大化に向かって活動するのではなくて良識に従って行動するものであるから、市民の部類に属する。以降、「市民」の言葉の中にNPOが含まれていると考えていただきたい。
 
たぶん、市民には、自発的モニタリングの役割が期待される。具体的には何をすればいいのか。しかめっ面をして監視する立場ではうまくいかない。共に働く立場になり、定期的な報告会で市民と顔を合わせて、日頃の業務や社会に関する世間話をする場をもつことが、良い自発的モニタリングだと思う。そして、現場性を盛り込んだ環境共育*1を実施し、できれば、そこにときどきは、職員も参加していただきたい。「モニタリングや環境共育は市民の役割だから、私たちは関係ない」という態度を職員がとってはならない。
 

4 市民・NPOが行う自発的モニタリングとは

 
自発的モニタリングに関わる要員が行うルーチンワークの具体的な提案としては、施設や地域でのマスバランス推定やトピック的な環境測定がふさわしいと思う。あるいは、楽しみながらの堆肥化やバイオエネルギーに関する実験なども、度を超さない程度であれば、良い取り組みであろう。
 
一例として、排ガス中「有機ハロゲン」の計測を紹介したい。焼却処理に対する不安感が払拭されない理由の一つが、「ごみ焼却がダイオキシン類を作る」である。ダイオキシン類の計測が年に1回だけであることや、清掃と計測のタイミングで計測値が大きく異なることから、常時モニタリングのニーズは高い。その方法の一つが「排ガス中有機ハロゲンの計測」である。法律によって義務づけられているわけではなく、自主的に行うものであるから、まさに、良識に従って活動するテーマである。
 
もうひとつ、学びと実践の幅を広げる方法として、「3R検定」あるいは「廃棄物学会」への参加などを通して、外部の団体との情報交換やネットワークを持つことである。社会の動向を知り、それこそ、専門家よりも知識レベルの高い市民になりたいということが、良識に従って行動する純粋な動機ではなかろうか。短絡的で脅迫的な質問を繰り返すだけの「クレーマー市民」、「モンスター市民」に陥ってはいけない。
 
以上、自分の研究テーマである「有機ハロゲン」や、深く関わっている「3R検定」や「廃棄物学会」を紹介させてもらった。
 

5 責任を伴う法的モニタリングが行政の本来の仕事になる

 
自発的モニタリングや環境共育を主導することがNPOの役割である一方、行政の役割は、継続と安全安心のための最大の努力をすることである。行政は税金収入で生業を得ているわけであるから専門家であるし、責任も負う。「PFI等か公設公営か」で議論になった2007年度の検討委員会で、事務局案として提出されたモニタリングイメージ(図1および図2)からは、クリーンランドが中心となって事業のモニタリングを行う意志表明が読み取れる。このモニタリングは、法的・予算的根拠を持ち、義務として行うものである。とくに、財務関連など、事業の安定した操業の責任につながるものであって、あまりおもしろみのないものかもしれない。しかし、そもそも、ごみ処理とリサイクルは、夢や希望だけで行うものではなく、日々の地道な努力があってこそ、市民参加が可能なのである。市民も、そのことを承知しておかなければならない。
 
図中には、NPOが明確に位置づけられていない。実は、2007年度の委員会では、全員の同意となる結論が得られず、やむなく、「事務局案として提出された....」として表現している。しかし、私は事務局の良心を高く評価したい。法的・予算的根拠を持つ義務的モニタリングと、市民の善意が主たる原動力である自発的モニタリングを同列で表現することに、事務局がためらいを感じたのであろう。クリーンランドの職員の気概の高さと、熱意を感じる。
 

おわりに

以上、「豊中市伊丹市クリーンランドをめぐる課題と展望」という表題で、民活の流れの如何を問わずモニタリングが必要であること、モニタリングは理解と信頼に結びつくものでなければならないこと、自発的モニタリングのテーマ例、行政の事務として行うモニタリングの大切さを述べた。ごみ処理とリサイクルは、相互の信頼によってはじめて成り立つものであるから、これまで通りの良好な関係を維持し、また発展させていきたい。
 
図1 事務局から示されたモニタリングの例
 
 
出典:
豊中市伊丹市クリーンランド ごみ処理施設整備にかかる事業化に向けた検討報告書
平成19年(2007年)2月 豊中市伊丹市クリーンランドごみ処理施設整備事業化検討委員会 p37
 
 
図2 PFI 方式での組織イメージ
 
 
出典:
豊中市伊丹市クリーンランド ごみ処理施設整備にかかる事業化に向けた検討報告書
平成19年(2007年)2月 豊中市伊丹市クリーンランドごみ処理施設整備事業化検討委員会 p38

*1環境のことを教えると共に自らも学ぶことを指す。「共に育む」ことなので、共育と記す。