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原子スペクトル分析を用いた有機ハロゲンモニタリング

 
廃棄物処理では塩素などのハロゲンは、特別な位置づけを持つ元素です。人間が有用な元素として利用したあとの処理に気をつけないと、ダイオキシン類問題などの、思わぬしっぺ返しをうけるからです。
 
そのハロゲンの挙動を調べるための道具として、バリヤー放電ラジオ波ヘリウムプラズマ原子発光法を開発しました。これは、気相試料中のフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を元素別に、ngオーダーで定量するものです。
 
この方法を用いて、ごみ焼却排ガス中の有機ハロゲンを調べています。まずは、ダイオキシン類の量を簡便に推定する方法であるがわかりました。しかし、ダイオキシン類以外にも多くの有機塩素があること、焼却施設の整備状況にその生成の様子が関連していることも、わかってきました。
 
これからも、有機ハロゲン化合物の分解のモニタリングなどに応用できるものと、研究を続けています。
 
原子スペクトル分析とは
バリヤー放電ラジオ波ヘリウムプラズマ原子発光法
ごみ焼却での有機ハロゲンモニタリングに関する研究
 
 

原子スペクトル分析とは

 
身近な原子スペクトルの利用は、花火です。銅が緑色、カルシウムが赤色など、金属元素の種類によって、異なる色を楽しむことができます。これを原子発光現象(炎色反応)といいます。この光を調べれば、どの元素がどれくらいあるのかがわかります。
 
 
光を調べる装置は、スペクトルメーターです。光を反射したCDが、壁に虹を作ることを知っている人は多いでしょう。この虹を小さい箱の中で投影して、それをCCD(デジタルカメラの受光部)で読み取るのです。図は、スペクトルメーターの仕組みを表しています。
 
測光からスペクトルメーターまでは、光ファイバーで光を送ります。IT技術の進歩で、スペクトルメーターは、近年、急速に安価になりました。
 
 

 

 

 

バリヤー放電ラジオ波ヘリウムプラズマ原子発光法

 
ハロゲンを含有する揮発性の化合物を注入し、これを、円筒タンデム電極(Tandem Cylindrical Electrodes)の間のプラズマで励起・発光させ、これを、スペクトルメーターで観察します。実際に実験に使用している装置の写真です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

発光スペクトル

 
得られるスペクトルの例は、以下の通りです。図は臭素(臭素源としてブロモエタン)を注入したときのスペクトルです(1: 827.2 nm; 2: 882.5 nm; 3: 889.8 nm; 4: 926.5 nm)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ハロゲン元素の原子発光線のいくつかを以下に記します。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

このテーマに関連した論文等

 

Watanabe N, Sun Y, Tsuyama T, Takegaki Y: Characteristics of fluorine determination by barrier discharge atomic emission spectrometry, Organohalogen Compounds Vol 69, 186-189 (2007)
 
Watanabe N,・Buscher, W. and Boehm, G.(2002)   Determination of fluorine, chlorine, bromine and iodine by barrier discharge radiofrequency helium plasma, Anal. Sci. Vol 18, 1191-1194(分析化学2001 論文賞の英文リライト版)
 
渡辺信久、Wolfgang Buscher, Guenter Boehm(2002) 特許: 特許第3383859号、発明の名称:原子発光分析装置、特許権者:大阪市、発明者:渡辺信久、ヴォルフガング ブーシャー、ギュンター ベーム、出願番号:特願2000-214958、出願年月日:平成12年 7月14日、登録日:平成14年12月27日、特許公報特開2002-31600A
 
Watanabe,N., Buscher W., and Boehm, G.(2001)Atmospheric Pressure Barrier Discharge Helium Plasma for Halogen Determination with Optical Emission, Anal Sci.Vol.17 Supplement, i971-i973
 
渡辺信久・Buscher, W.・Boehm, G.(2001)バリヤー放電ラジオ波ヘリウムプラズマ発光法によるフッ素, 塩素, 臭素及びヨウ素の定量, 分析化学, Vol. 50(3), 163-167
 
Lepkojus, F., Watanabe, N., Buscher, W., Cammann, K. and Boehm, G.(1999) A simple radiofrequency helium discharge plasma (RFP) for spectroscopic purposes, J. Anal. At. Spectrom., Vol. 14(9), 1511-1513
 
 
 
 
 
 
 
 

ごみ焼却での有機ハロゲンモニタリングに関する研究

 
ダイオキシン類が問題になった1990年代、渡辺は、金属と塩素の関係を調べていたので、「有機塩素化合物の生成」を大づかみで制御すれば、ダイオキシン類を押さえられると考えていました。そのためには、ダイオキシン類の異性体分析より、もっと簡便に、「有機塩素を全量として捕まえる」計測が必要でした。
 
 
 
 
 
注) Cl2の計測で塩素化活性のモニタリングが可能であるならば、それは、とても有用なことであるとして、熱心に研究した時期がありましたが、失敗に終わりました(文献要旨はこちら)。
 
 
 
 
 
 
塩素量の計測は、一般的には、燃焼-クーロメトリー法が用いられます。しかし、実用的な感度は10μgClなので、2m3程度の排ガスをサンプリングする必要がありました。原子スペクトル分析では、ng、pgオーダーでの検出が一般的です。そこで、ハロゲンの原子スペクトル分析を実用化しました。
 
この方法を用いて、排ガス中の有機塩素を調べています。最初は、ダイオキシン類との相関を調べました。図は、低揮発性有機塩素(Low volatile organic chlorine: LVOCl)とダイオキシン類実測濃度との関連です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図 焼却炉スタートアップの時の総有機ハロゲンとダイオキシン類との相関(2006 NEDO データ)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
これまでわかっていることは、以下の通りです。
 
● 「低揮発性有機塩素」の計測で、ダイオキシン類の量を推定できる。
● 「低揮発性有機塩素」は、ダイオキシン類の1000倍程度の量である。
● 低濃度域の毒性情報を含んだ毒性等価換算濃度(TEQ)との相関は悪い。
 
● 焼却施設のオーバーホール直後から定期的にモニタリングをすると、有機塩素が上昇していく様子がわかる。すなわち、「汚れがたまると有機塩素が生成しやすくなる」ことのモニタリングが可能である。
 
● 都市ごみ焼却処理場排ガスで、有機臭素も検出される。
 
塩素のみならず、臭素の問題、フッ素の問題、有機ハロゲン生成ポテンシャルの問題...多くのテーマがあります。計測装置の改善と共に、さらに解明していきます。
 
 

このテーマに関連した論文等:

 
 
Correlation of low-volatile organic chlorine (LVOCl) and PCDD/Fs in various municipal waste incinerators (MWIs), Watanabe N, Takakura A, Minami Y, Mizutani S, Takatsuki H, Chemosphere Vol 67, S198-S204 (2007)
 
渡辺信久・高倉晃人・名久井博之・渡部 剛・孫軼斐: 吸着・加熱脱着分析におけるサンプリング前処理に関する検討, 環境化学 Vol 17 461-469 (2007)
 
 
渡辺信久、南 吉隆, 水谷 聡, 高月 紘, 高倉晃人(2004)排ガス中の中-低揮発性有機塩素化合物(SLVOCl)の捕集および定量に関する基礎的検討, 環境化学 Vol 14, 597-604
 
以下のものは学会発表です
 
川畑義広・草間佳寛・渡辺信久: 吸着・熱脱着サンプリングでの揮発性有機臭素化合物の吸着分配, 第19回 環境化学討論会(2010 Jun 21-23, 中部大学, 講演論文集 682ー683 テキスト
 
 
 
Kawamoto K, Watanabe N, Asada S, Fujiyoshi H, Miyata H, Watanabe G, Suzuki S: Dioxin surrogate study under startup conditions of municipal waste incinerator, Organohalogen Compounds Vol 69 182-185(2007)
 
高倉 晃人・名久井 博之・松田 強志・渡部 剛・渡辺 信久:効率的な排ガス中有機ハロゲン化合物のサンプリング法の検討,第16回 環境化学討論会(2007 Jun 20-22,北九州, 講演論文集 370ー371
 
川本克也・浅田正三・藤吉秀昭・宮田治男・渡辺信久・渡部剛・鈴木 悟: 有機ハロゲンモニタリングによる焼却炉制御の支援について, 第16回 環境化学討論会(2007 Jun 20-22,北九州, 講演論文集 46ー47 スライド
 
渡辺信久・高倉晃人: 焼却排ガス中低揮発性有機塩素(LVOCl)とダイオキシン類の相関2001-2003, 第15回 環境化学討論会(2006 Jun 20-22,仙台), 講演論文集 484-485
 
Watanabe N,Takakura A, Minami Y, Mizutani S, Takatsuki H (2004)Correlation of low volatile organic chlorine (LVOCl) and PCDD/Fs in various municipal waste incinerators (MWI), Organohalogen Compounds Vol.66, 758-765
 
渡辺信久・水谷聡・高月紘・南吉隆・高倉晃人(2004)ごみ焼却処理施設の有機ハロゲンーde novo合成モニタリングからの考察, 第15回廃棄物学会研究発表会 (2004Nov 17-19, 高松) 講演論文集 943-945
 
Takakura, A., Watanabe, N. and Fukuyama, J.(2003)Monitoring study of semi and low volatile organic halogen as the indicator of PCDD/Fs in the stack gas at a municipal waste incineration plant, Organohalogen compounds, Vol 60, 501-504
 

今後の展開

 
このバリヤー放電ラジオ波ヘリウムプラズマ発光法は、まだまだ、「プラズマが点灯したところに試料を注入してみたところ、ハロゲンの発光線が観測された」程度の段階です。それでも、急いで、都市ごみ焼却排ガスの有機ハロゲン計測をやっていたのですが、まだまだ、改良の余地があると考えられます。現在も、進化中です。