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リスクの認知と受容に関する研究

 
New! 環境リスクに関する講演(第4回 サステイナブルセミナー 岡山大学環境管理センター主催 2011 Oct 24)

CONTENTS











 

■ 損失余命(Lost Life Expectancy: LLE)によるリスクの表現 1 -たばこ-
  (ミレニアム元日の禁煙の勧め)
  (NIPPON DATA 80での調査結果からの考察)
■ 損失余命によるリスクの表現 2 -発ガンリスクを損失余命に換算する-
  (矩形近似法の考え方)
  (短期間曝露への適用)
  (損失余命率(LLER)での比較)

このテーマに関連した論文等
 
 
 
 

損失余命(Lost Life Expectancy: LLE)によるリスクの表現 1 -たばこ-

(ミレニアム元日の禁煙の勧め)

2000年1月1日の医学雑誌British Medical Journal(BMJ)で、「たばこ1本で命が11分短縮される」と掲載されました*。計算方法は、次のような考え方で、とてもおおざっぱなものです。
 
 

図「たばこによる損失余命」の計算方法

 
  喫煙者は非喫煙者よりも寿命が6.5年短い。
  喫煙者は、17歳から71歳までの54年間、5772本/年(15.8 本/日)のたばこを吸う。
  
  すなわち、たばこ1本あたりの命の損失は6.5年/ (5772×54)本 = 11分
 
* Shaw, M., Mitchell, R. and Dorling, D. (2000): Time for a smoke? One cigarette reduces your life by 11 minutes - Letter to the editor, British Medical Journal, 320: 53.(Time for a smoke ?で検索してみてください)
 
 
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(NIPPON DATA 80での調査結果からの考察)

 
 わが国でも、1980年から続けられてきたたばこと余命の短縮に関する疫学調査(NIPPON DATA 80)の結果が2007年に発表されました*。40歳時点での平均余命で比較を行い、表の結果を得ました。先ほどのイギリスの例と同じような計算をしてみましょう。たばこを吸い始める年齢を20才とし、死ぬまで40才時点でのペースで吸い続けるとして計算をすると、たばこ1本あたりの損失余命は3.0 〜7.6 分/本となりました。
 
* NIPPON DATA 80 で検索してみてください。
 

表 喫煙量と余命の関係

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  NIPPON DATA 80の結果         たばこ1本あたりの損失余命の推定
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  40歳の時点での余命     1日の本数(仮定)       損失余命の計算
 
非喫煙者 で 42.1年
1箱/日未満で 39.0年     (10本)        (42.1 - 39.0) / ((20+39.0)×365×10) = 7.57 分/本
1〜2箱/日 で 38.8年     (20本)        (42.1 - 38.8) / ((20+38.8)×365×20) = 4.04 分/本
2箱/日以上で 38.1年     (50本)        (42.1 - 38.1) / ((20+38.1)×365×50) = 3.02 分/本
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 たばこがとても大きなリスクをもたらすことが、直感的に、わかると思います。ただ、吸う本数が多いほど、1本あたりの損失余命は小さくなるようです。これは、皮肉っぽく言えば、ヘビースモーカーに有利な論理ですね。逆に、吸う本数が少ないほど、1本あたりの損失余命は大きくなります。すなわち、たばこを吸わない人が受動喫煙をする場合、たばこ1本あたりの損失余命は、喫煙者のそれより大きいということになります。分煙の意義は大きいですね。
 
 

損失余命によるリスクの表現 2 -発ガンリスクを損失余命に換算する-

(矩形近似法の考え方)

私が「損失余命」の考え方に興味を持ったのは、中西先生・蒲生先生・間島先生らの一連の研究発表でした。「生涯過剰発ガンリスク10-5は、損失余命65.8分に相当する」の計算と、作業曝露による損失余命の計算は、共に興味深く、自分でたどってみたかったのですが、生命表に基づく計算は容易ではありませんでした。
 
  * 中西準子: 環境リスク学 不安の海の羅針盤, p97, 日本評論社(2004)
  * 蒲生昌志・岡敏弘・中西準子: 発ガン性物質への曝露がもたらす発ガンリスクの損失余命による表現ー生命表を用いた換算ー、環境科学会誌, Vol 9, 1-8(1996)
  * 間島隆博・山口勝治・山之内博・蒲生昌志: 化学物質輸送船乗組員に及ぼす有害ガス曝露の健康影響評価-発がん性物質の場合、日本航海学会論文集、108号、39-46(2003)
 
「生命表がもしも、台形や長方形のように簡単なものだったら、損失余命の概算を、手計算でできるかもしれない。」と考え、次の図のような考え方で、損失余命の計算方法を考えました。
 

図 矩形近似法による損失余命の計算方法(生涯曝露)

生涯過剰発ガンリスク 10-5とは、「10万人の死亡の1人分は、そのリスクの結果である」という意味です。寿命80才、人口N人の集団が、生涯発ガンリスク=1×10-5に曝露されれば、毎年、N×10-5/80 人の人が、そのリスクの結果として亡くなることになります(図の黄色の台形)。これを、「全員の寿命がLLE分だけ短くなった」と解釈して、新たな生命曲線を緑色の長方形で表現して、LLEを求めるのです。その結果、生涯過剰リスク10-5のレベルの曝露を生涯受け続けたときのLLEは、210分となりました。
 

図 生涯曝露を矩形近似法によって損失余命に換算する計算

 
 
この計算結果を蒲生らの論文と比較すると次のようになります。
 

   表 生涯過剰リスク10-5のレベルの曝露を生涯受け続けたときのLLE

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  (1) 矩形近似法(寿命を80年とする)           210 分

  (2) 過剰発ガン死亡を全年齢に割り当てる場合(蒲生ら)  65.8分

  (3) 過剰発ガン死亡を69歳までに割り当てる場合(蒲生ら) 205 分

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(1) と (2) にはずいぶんと開きがありますが、(1) と (3) に大差はありません。(2), (3) ともに蒲生らの計算によるものです。蒲生らの論文によると、起こり得そうなさまざまな効果を加味して計算した結果である(2) は、年齢の上昇とともにガン死の確率が高くなり、そのピークが80才の手前に現れるという結果であったので、これと比較する目的で、(3)の過剰発ガンを69才までに割り当てるという計算結果も示しています。この(3)の結果は、矩形近似法とほぼ同様であったということになります。
 
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(短期間曝露への適用)

 
さて、損失余命がリスクを定量的に表現する利点は、曝露濃度と曝露頻度(期間)の両方がリスクに比例することを端的に表している点です。すなわち、たばこ1本での余命短縮が5分ならば、2本で10分、3本で15分という具合に、容易に想像できるからです。
 
この考え方を、先ほどの発ガンリスクに適用します。これはとくに、労働や実験による化学物質の曝露を評価するときに必要となります。すなわち、実験中に一時的に300μg/m3の濃度のベンゼンを吸入したからといって、リスクが1.5x10-3になるわけではなく(注: ベンゼン曝露濃度 2μg/m3は、生涯過剰発ガンリスク10-5に相当します)、吸入した濃度とともに、時間も重要な要因となるはずなのです。
 
このような計算を行う上では、曝露濃度(a: 生涯過剰発ガンリスク 10-5に相当する濃度のa 倍として表現)、曝露開始年齢(b歳)と、曝露期間(c年)の情報から、LLEを計算します。
 
 

図 短期間曝露を矩形近似法によって損失余命に換算する計算

 
 
たとえば、20歳から5年間、a=1の曝露濃度で曝露を受け続ければ、LLEは18.9分になります。
 
 
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(損失余命率(LLER)での比較)

 
損失余命率(Loss of Life Expectancy Rate)は、曝露時間に対する損失余命時間です。たとえば、あるリスクに10分間曝露を受けて、その結果の損失余命が1分であれば、LLER=1(分-損失余命)/10(分-曝露時間) =0.1となります。たばこのLLERは、ほぼ1である(喫煙時間と損失余命時間が等しい)と仮定すれば、「どれほどの曝露強度があれば、喫煙と同等であるのか」を推定することができます。
 
ここでは、例として、ベンゼンの曝露を考えてみましょう。ベンゼン曝露濃度 2μg/m3は、生涯過剰発ガンリスク10-5に相当します。「2μg/m3の曝露を20歳から5年間続けたときのLLEは18.9 分である」から出発して、次の表に示す計算をします("ベタ"な比例計算ですが)。
 
 

表 LLER =1となるようなベンゼン曝露濃度の計算

   曝露強度   曝露開始年齢(b)   曝露期間(c)     
 
損失余命(LLE)  
 

        注釈
 
 a     ベンゼン濃度
 1   2μg/m3  20 歳  5×365×24×60 分  18.9 分 矩形近似法による計算結果      
1000

 
2000μg/m3
 =
2 mg/m3

20 歳 
 

5×365×24×60 分 
 

18900 分
 
曝露強度を1000倍にすれば、LLEも1000倍になる               
 
1000
   
 2 mg/m3 
 
20 歳 
 
    1 分    
 
0.0075 分
 
曝露期間を1/(5×365×24×60) 倍にすればLLEも1/(5×365×24×60)倍になる。 
139000    267 mg/m3      20 歳 
 
    1 分    
 
 1 分 
 
曝露期間とLLEが等しくなるのは、曝露ベンゼン濃度が 267 mg/m3 のときである。
 
この結果、喫煙と同等のリスクをもたらすベンゼン曝露濃度は、267 mg/m3(=82 ppm(v/v))となりました。
 
 
 
このテーマに関連した論文等
Watanabe N, Mizutani S, Takatsuki H: A simplified estimation of lost life expectancy (LLE) using a rectangular approximation method Environ Sci Vol 14 9-14(2007)     Presentation Slide
 
 
以下のものは学会発表です。
渡辺信久: 市民参加による都市ごみ中間処理施設PFI化に関する議論の推移, 第18回廃棄物学会研究発表会 (2007 Nov19-Nov 21, つくば) 講演論文集 240-242 スライド
渡辺 信久, 水谷 聡, 野村 直史: 減圧濃縮操作後の有機溶媒回収率の推定   第15回 環境化学討論会(2006 Jun 20-22,仙台), 講演論文集 638-639
渡辺信久, 水谷 聡, 高月紘: 損失余命を用いた化学物質短期間曝露の管理方法 第14回 環境化学討論会(2005 Jun 15-17,大阪), 講演論文集 162-163
渡辺信久: 損失余命を用いた化学物質短期間曝露の管理方法 第14回 環境化学討論会(2005 Jun 15-17,大阪), 講演論文集 162-163
渡辺信久: 話題提供 「環境・健康リスクの主役は誰だ? -リスク研究のつながりを議論しよう -第17回 環境化学討論会(2008 Jun 11-13,神戸),スライド