大阪工業大学 環境工学科

環境保全工学研究室

環境保全工学研究室では

微生物を利用して排水から環境汚染につながる物質の除去を行う技術の研究について取り組んでいます。
 排水中に含まれる有機物、窒素やりんなどの栄養塩類を除去する下水処理場や排水処理プラント内ではさまざまな微生物が活躍することで水をきれいにして環境中に放流しており、環境汚染を防ぐ役割をしています。効率よく水をきれいにするためには水処理で活躍する微生物にとっていい環境づくりを行うことが重要で、そのためにはそれぞれの微生物について深く知ることが課題となっています。この課題を解決するために、いろいろなバイオリアクターと呼ばれる装置を動かして実験・データ取得をしたり、分子生物学的手法と呼ばれる方法を使って微生物のDNAを調べたりしています。

Anammox細菌を利用した排水中からの窒素除去技術

 嫌気性アンモニア酸化(Anaerobic Ammonium Oxidation:Anammox)プロセスはアンモニア(NH4+)を電子供与体、亜硝酸(NO2-)を電子受容体とした微生物学的なプロセスで、排水中からの窒素除去に大きく貢献できる微生物です。このプロセスを担うアナモックス細菌は、独立栄養性の微生物であることから有機物を必要とせず、亜硝酸を電子受容体とすることから酸素も不要なため、下水処理場で行われている窒素除去プロセスに比べるとメリットのたくさんある窒素除去プロセスとして注目されています。一方で、増殖速度が遅く、十分な菌体量を確保するためには膨大な時間を必要とすることから、増殖に適した条件を明らかにすることは非常に重要です。
 アナモックス細菌は、下水処理場、河川や湖などの底泥、地中などの様々な淡水環境に生息する種類(淡水性)河川河口、海洋底泥などの塩分を含むような環境に主に生息する種類(海洋性)に分類することができます。これらのうち、淡水性アナモックス細菌はすでに水処理プロセスに利用されていて、様々な研究が進められています。その一方で、海洋性アナモックス細菌は世界中でも培養例が限られており、未知な部分が非常に多いという現状です。
 海洋性アナモックス細菌は、魚の養殖場から出る排水中のアンモニア除去への利用に期待でき、環境保全工学研究室のテーマの一つとして取り組んでいます。具体的には、海洋性アナモックス細菌の大量培養に関する研究を行っています。海洋性アナモックス細菌は淡水性に比べてもさらに倍加時間が長く、排水処理プロセスに応用するためには十分な量の菌体量をできるだけ短い時間で確保する方法が必須ですが、そのような研究例はほとんどありません。十分量の海洋性アナモックス細菌を確保し、実際に排水処理プロセスとして有効であるかを実証していきます。

温室効果ガス排出量削減に向けて

 下水の微生物処理プロセスから発生する温室効果ガス削減の研究に取り組んでいます。下水処理場では微生物学的なプロセスを利用して排水に含まれる有機物に加えて、窒素やりんなどの栄養塩類の除去を行っています。処理された水は消毒などの工程を経て環境へ戻されます。下水処理場では曝気やポンプ稼働などに必要な電力消費に起因する二酸化炭素の排出に加えて、微生物処理プロセスからも温室効果ガスの発生が確認されており、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素(N2O)などが主な温室効果ガスです。
 この中でもメタンや亜酸化窒素はそれぞれ二酸化炭素の25、300倍程度の温室効果があると言われていて、ほんの少しの放出だけでも大きな影響を及ぼす可能性があります。特に、亜酸化窒素は微生物処理プロセスのいろいろな経路から発生することが報告されていて対策が急務ですが、具体的な発生メカニズムや対策は一部を除いて明確になっていません。研究室テーマとしては、まずN2Oが実際にどれだけ下水処理場から発生しているかを正確に知るために現地調査を実施して、排出係数算出や排出に影響を与える因子が何であるかを明らかにしようとして取り組んでいます。
下水処理場管理者のみなさま、もしN2Oの排出量測定にご興味があるようでしたらご相談下さい。

微生物を利用した有価物の回収

 この研究テーマでは、微生物を利用して排水処理を行うだけではなく、排水中から有価物を回収したり、有価物を作り出させることに利用できないかということに取り組んでいます。微生物の中には嫌気と好気の条件でそれぞれ「りん」を吐き出したり取り込んだりする微生物が存在していて、この特徴を利用することで排水中のりん除去が可能になりますが、それだけでなく「りん」を濃縮・回収することも可能になります。また、マンガンを酸化する微生物も存在していてその酸化物はいろいろな金属などを吸着すると言われています。このマンガン酸化物を用いることで有用な物質を回収できるかもしれません。
 本研究室では、アンモニアを有価物として考えており、空気中の窒素からアンモニアを作ることができるかもしれないと考えています。

以下、工事中です。

略歴

2002年 兵庫県加古川西高等学校 卒業
2008年 広島大学工学部第四類建設・環境系 卒業
2010年 広島大学大学院博士課程前期修了
2012年 日本学術振興会特別研究員(DC2→PD)
2013年 広島大学大学院博士課程後期修了 博士(工学)
2013年 デンマーク王国オルボー大学客員研究員
2014年 名古屋大学エコトピア科学研究所 助教
2015年 名古屋大学未来材料・システム研究所 助教
2018年 国土交通省国土技術政策総合研究所 研究官
2021年 現職 (現在に至る)

そのほか

・所属学会
土木学会、日本水環境学会

・趣味、好きなこと
釣り、自転車、登山、BBQ

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