特許※、商標※、著作権※などの知的財産は、見たり、聞いたりしても、
専門知識がなければ、仕事との結びつきは理解しづらいもの。
でも、知的財産の知識や活用はビジネスに必要不可欠であり、
グローバルなやりがいに満ちています。
今回は、多くの人気ゲームタイトルを輩出している
株式会社カプコンの知的財産部の奥山副部長、保田室長 兼 著作権チーム長、
山田商標チーム長の座談会と、
本学の知的財産学部の五丁教授、関堂准教授で、
知的財産の仕事のやりがいや楽しさ、将来性を探りました。
以下、敬称略
これからのビジネスでは、
DX(デジタルトランスフォーメーション)※の進展により、さまざまな変化が起こり、
一層、知的財産の所有や活用が重要になると見込まれています。
とりわけエンターテイメントジャンルのなかで注目されているのがゲーム業界です。
eスポーツやダウンロード販売など、新たな局面をみせる業界で、
知的財産のプロが取り組みや考え方、展望などを語ります。
五丁カプコンはゲーム業界の老舗であり、キャラクターをメディアとコラボさせる先駆けとしての企業のイメージがあります。やはりゲームを社会的に広げることが主旨なのでしょうか?
山田はい、ライトユーザーのお客様にも認知頂けるよう、主力であるゲーム事業を軸として、そこから映画化やキャラクターのグッズ化など、幅広い商品展開を行っています。例えば、ゲームはしないが、キャラクターの商品を手に取って頂いたり、映像作品を見て頂いたことのあるお客様もいらっしゃるかと思います。カプコンでは、そういった様々なジャンルに展開する「ワンコンテンツ・マルチユース」を基本戦略と位置付けています。
関堂なるほど、そうなのですね。キャラクターが力を持ち、海外にマーケットが広がると、権利関係もゲームのシステムなどの特許に限らず、商標や著作権などの管理業務がさらに重要になりますね。
奥山その通りです。特許も重要ですが著作権や商標がより重要になっています。
山田当社では、知的財産管理、特許、商標、著作権で、それぞれ専門チームを編成してゲームに関わる特許や商標出願※や著作権などに関わる業務を行っています。
関堂各チームは、具体的にはどのような業務を行なっているのでしょう。
保田特許チームは発明の発掘を行い、特許事務所の弁理士に特許出願を依頼します。商標チームは、ゲームタイトルやキャラクターの商標調査や出願をするか否かの検討が主な業務です。著作権チームは著作権登録やゲーム内表現のチェック業務。海賊版の調査、侵害対策を行っています。管理チームは総合的な開発の窓口業務や知的財産に関わる社内教育を担います。
関堂グローバル化、デジタル化の時代で商標や著作権などの事前調査、登録も簡単ではないと聞いています。
山田当社のゲームは販売地域が広く、商標の出願は200以上の国と地域から選定する必要があります。ゲームの展開に合わせてどの商標をどの地域で出願するのか、それがとても重要になります。海外の場合は文化や社会背景も知っておかなければなりません。例えば、中国の場合は公序良俗に厳しく、権利化に苦心するような場合もあります。
五丁商標出願は、専門家でも出すまでわからないといわれています。なかには拒絶されるケースもあるかと思いますが、対応はどのようにされていますか。
山田拒絶される可能性を減らす為、出願前に商標調査を実施しています。それでも色々な理由で拒絶を受ける場合があります。そういった場合は、国内の場合は社内で対応し、海外の場合は弁理士と相談しながら進めることが多いです。調査が問題なくとも思わぬ観点で拒絶を受けることもありますし、当初は「難しいかもしれない」と想定してもうまくいくケースもあります。
保田タイミングも重要ですね。出願すると特許庁のデータベースに載るため、商標出願をすることによって情報が先に漏れないように、タイトルリリースの公式発表と出願タイミングを調整するなど、開発や広報との連携も欠かせません。
五丁一般的なメーカーでは、開発部が主導し、知財部がサポートして特許取得に取り組むケースがあります。カプコンでは知的財産に関わる人が牽引しているのでしょうか?
奥山ゲームの企画書や仕様書をチェックし、特許として権利化が可能なアイデア(発明)を見つけて特許取得を進めています。カプコンではゲームをたくさんすることも仕事の一つです。
関堂特許につながる発見や発明など具体的にはどのように出てくるものでしょうか?
奥山まず仕様書の中に特許侵害になる部分がないかを調べる必要がありますが、仕様書の中から新しいと思うアイデアを見つけ出して、そのアイデアが特許にできるかどうかを判断しています。そのほか、実際にゲームに実装しないアイデアも特許にできる可能性があるため、仕様書に書いていないアイデアも開発からヒアリングするようにしています。また、会社の無形資産(知的財産)を増やすという考えから知的財産部のスタッフが発明をすることもあります。例えば、ユーザーとしてゲームをしている中で「この操作は不便だな。こういう操作ができればいいのにな」とか「こんな機能があればもっと楽しいのに」など、ユーザーインターフェースなどに関する気付きがあります。そのような気付きの部分を特許として取得することもあります。
五丁だからこそ、知財部のスタッフが発明者として特許の名前に記されるということですね。
奥山そうなんです。特許の検索をすると私など知財部員の名前がでてきますよ。特許はアイデアを権利化するものです。開発だけでなく全社員が特許となるアイデアを出すチャンスがあり、そのアイデアを権利化しています。
関堂それは知財部員のモチベーションアップにもなりますね。
奥山ええ、知財部はアイデアを扱う仕事をしているので、どのようなアイデアが特許として取得できるのかのノウハウを持っています。このアイデアがゲームに実装されなくても、特許として権利化することで会社の資産になるためとてもやりがいがあります。でもただ思いついたアイデアを出すという訳ではありません。3年後、5年後を見据えた判断が必要になります。技術の進歩や人々の生活や嗜好は目まぐるしく変化しています。人々の生活をより豊かにするために各企業は色々なアイデアを考えていますが、これからは1社で考えるだけでなく、それぞれが得意な技術をミックスさせて新たなモノを生み出すことが注目されています。そのため、異業種の技術と既存のゲーム技術を融合させて、新たなアイデアを考えて特許出願することもあるのです。将来的にこれらのアイデアで人々の暮らしが良くなることを夢見て仕事をしているとモチベーションもアップします。
五丁DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むことで、コンテンツの販売形態などが大きく変化しています。知的財産の保護や活用方法は、どのようにお考えでしょう。
山田ゲームは店頭販売からダウンロード販売の形態にシフトしており、世界中で新たなお客様が生まれ、その国々での知的財産の保護が必要となってきています。それも国ごとの細かな対応が不可欠となっています。商標に関しては、国と出願する区分を随時検討して、商標を取得しています。デジタル販売は加速度的に増えているためスピード感を持った対応を心がけています。
保田販売する国や地域が広がること、販売形態が変化することで知的財産に関わる新たな課題や問題も生じます。現場の意見を聞きながら、知財部として日々対策を考えて実行しているところです。
関堂スピード感をもって知的財産の業務に当たられているのを感じます。eスポーツなど世界で確立されつつある新しいエンターテイメントに関しての取り組みはいかがでしょう。
山田eスポーツの大会名も会社の資産です。ゲームのタイトルと同じように調査して商標出願を実施しています。
保田また、eスポーツの法的保護の研究を業界団体と共に行っています。新しいビジネスが生まれるたびに、権利保護、普及など総合的に検討し実践するのが知財部の役割でもあるのです。
五丁eスポーツでも商標を含めて知的財産の保護は、知財部門のハンドリングにかかっているのですね。知財部門の腕の見せ所でしょうね。
奥山商標や著作権以外にも、eスポーツビジネスには、ゲームにはない「興行としての新たな課題」があります。その課題を解決するアイデアは特許として出願をしています。また、eスポーツはゲームに限らず、野球やサッカーなどのスポーツ観戦に通ずるものがあります。そのため、知財部のスタッフはゲームだけでなく、スポーツ観戦、音楽や舞台などの興行も趣味を兼ねて勉強しています。現在、コロナ禍でリアルに開催されるイベントは大きなダメージを受けていますので、eスポーツのようなリアルとオンラインを融合させたアイデアが他のイベントにも活用できないか考えてアイデアもだしています。
五丁特許はライセンス契約によって広く社会に利用される側面があります。その点はいかがでしょう?
奥山特許アイデアは多くの人に活用されなければイノベーションは起きません。そのため、異業種なども含めてライセンスをしていきたいと考えています。協業企業や顧客の利益にも繋げてwin-winの関係を築き、顧客のウェルビーイングを実現したいと考えています。特許は独占的に実施できる権利ではありますが、どのように活用すると会社のためや世の中のためになるのかを考える必要があり、とてもやりがいがある仕事だと感じます。
保田知的財産保護は重要ですが、皆さんに当社コンテンツを様々な形で楽しんでいただける環境を生み出すことが大事だと考えています。例えば、カプコンのゲームを使った動画配信に関する公式のガイドラインを全世界で公開し、当社コンテンツを利用して、ユーザーの皆様に自由な動画を制作いただけるように体制を整えています。
関堂ゲーム会社がエンターテインメントのイニシアティヴを担う可能性を感じます。今後さらに注目を集めそうですね。
五丁ここまで様々なお話をお聞きしましたが、知財部門は一般的に法学部などで法律を学んだ学生を求める印象があります。やはり、そうした専門知識を持った人材を求められていますか?
奥山当社の知財部は理系、文系などバックボーンは様々です。特許のスタッフは理系出身者が多いですが文系のスタッフも活躍しています。ただし、いずれにしてもゲームなどのサブカルが好きであることは共通しています。知財部では、理系や文系など学びの領域は関係ないと思います。理系でも学生時代に知的財産のことを学んでいた方がメーカーの知財部で働くためにはアドバンテージがありますし、文系でも知的財産権の知識があれば活躍できます。私自身、学生時代に知的財産を学んでおけばよかったな…と感じることがありますが、ゲームやスポーツなど自分の好きなことに情熱を注いだ経験は社会人になった今でも役立っています。
保田法学部出身者は、刑法や民法などを専門に学んでいる学生もおり、入社してから知財を学ぶ方も多い印象です。知財の知識があれば言うことはないですが、当社知財部ではゲームの知識を持っている人が活躍いている印象です。好きなことに情熱を持っている人は、自分の成長とうまく結びつけられるからではないでしょうか。
関堂みなさん、それぞれ知財のスペシャリストとしてご活躍されています。仕事のやりがいはどんなときに感じられますか?
保田携わったタイトルが無事商品化されたときです。特に開発初期段階から携わり、問題解決の一助を担ったときや、全世界で無事権利取得ができたときには担当者としてやりがいを感じます。また、多くの人が知っているゲームのエンドロールに自分の名前が出るのも嬉しいですね。タイトル制作に携わっていることが実感できます。
奥山特許法という決められたルールの中で自社の権利を獲得することにゲームをクリアするようなやりがいを感じます。一方で、自社の権利を主張するだけでなく、互いに持っている特許を活用するなど、ユーザーのことを考えて競争している会社と連携できるのも知財部の面白さだと思います。また、今後これらの連携を強化していくことも課題の一つであると思います。
山田いかに的確に、効率良く権利取得ができるかというのも商標担当の腕の見せ所だと思っていますので、そのサイクルが上手く回っているときです。また、新作のゲームが無事発表されたとき、商標面からサポートできていると実感し、やりがいを感じます。