'80年代のAIスピーカ
SHARP『EL-620』
1982, 12,800 JPY

EL-620

解説

つまらない型番以外にこれといった愛称もない一見無害なオフィス電卓に見 える本機。外見上の特徴はスピーカを思わせる(ま、実際スピーカなんですけど) 本体上部の多数の孔です。これ、何でしょう?ラジオかな?いや、さにあらず。 なんとこいつ、 しゃべるのです、 わりと流ちょうな日本語で。例えば [1][2][3][×][4][5][6][=] と 打鍵すると「イチニサンカケルヨンゴロク / ゴマンロクセンハチ ジュウハチ」とこんな具合い。いやむしろラジオだったらもっと実用性はあっ たろうにというツッコミはシャープの目の付けどころの問題なので置いておく として、80 年代初頭にこんな小さな電卓に音声合成テクノロジーを実装したと ころは オーパーツもかくありきや と言える見事さです。では誰がための電卓か、 という話になりますが、例えば視覚障碍者向けの電卓という線はアリだと思い ます。きっと役に立つでしょう。…がしかし、テンキーの [5] によくある触覚 インジケータの「ぽっち」がないという 微妙な脇の甘さ は一層ミステリアスな 雰囲気を醸し出しています。それ故に多分それほど売れなかったのでしょう。 電卓としての レアリティはけっこう高め です。

ちなみに本機、同一の型番を与えられた双子のきょうだい機が輸出向けに存 在し、こちらは英語ネイティヴです。さすがに 1981 年の技術的制約のもとで はバイリンガルは難しかったのでしょうか。

あと、本機の購入を考えられている方は電池にもご注意ください。非常に入 手困難な LR9 とかいうボタン電池です。 (小林は 3D プリンタで LR44 ようのアダプタ を作りました。)