心地よいスタンダード
Texas Instruments『TI-30XS』
2005, ?? USD

TI-30XS

解説

1976年に生まれた破格(25 USD)の初代TI-30に始まり、 現在までに20機種くらいが連綿と作られ続けている「TI-30なんとか」は TIの低価格関数電卓における 伝統のビッグネーム です。そのうちの一つが 本機、2005年に誕生した TI-30XS MultiView (以下 TI-30XS)。

TI-30の名を冠するわけですから特別すごい電卓ではなく、ごく標準的な 庶民派関数電卓なのですが、この TI-30XS の最大の特徴は TI 初の 非グラフ関数電卓における pretty print (数式を人間がふつうに 書くような表記で表示あるいは入力できる機能) 搭載ということでしょう。 ……なんだか無理やり特徴を絞り出した感は否めませんが、そこはそれ、 スタンダード関数電卓に際立った特徴を期待すること自体が無理筋と 言うものです。 そんなわけで、 言ってみれば「この当時各社が競って導入した pretty print機 の TI 版 」で片付けられてしまいかねない本機、 ところが使ってみるとこれが他社と比べて 謎の心地よさ があるのです。さあ、その謎を明らかにしていきましょう。

まず、従来に比べて格段に広くなったとは言え、それでも狭い画面の 使い方がとても丁寧。一行で済む計算は 入力と出力を同一行に表示 するし、 行数を食う複雑な分数などでも過去の計算を(広い仮想画面の 一部を覗いているように)切れた状態で表示します。 1ドットたりとも無駄にしない という開発者の熱い魂のような ものを勝手に感じてしまいます。 こういうスタンダード関数電卓って実は少なくて、多くの場合、 新たな式の入力をするとその都度 表示をクリアする(下図参照)という、ドットを湯水のごとく消費する 方式がまかり通っています。本機のように 目一杯過去の情報を残そうとしてくれると、使用時の 思考の連続性を維持するのが楽です。これが心地よさの 最大の秘密でした。

TI-30XS screen comparison

左からSHARP EL-509T, TI TI-30XS, CASIO fx-JP900

あとは細かいことですが、変数 x, y, z, t, a, b, c がすべて 小文字で表示される のも数学的に自然でよろしい。さらにこれらの変数を 入力する際にいちいち[ALPHA]キーを押さずに、一つのキーを何度か ストロークする方式も(変数の数がこのくらいなら)楽で良いと 思います。

同クラスのライバル機と比較すると機能は少ない本機ですが、 めったに使わない機能がてんこ盛りであるよりも、こういう基本的な 使いやすさがある点は割と気に入っていて、 どうでもいいようなつまらない計算を するときはついついこいつに手が伸びてしまいます。おすすめです。