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TI-Nspire CAS

「あえて言おう、CASであると!!」(ギレン・ザビ氏談)
Texas Instruments『TI-Nspire CAS』
2007, ?? USD

TI-Nspire CAS

解説

アメリカには HP と TI という二大電卓メーカーがあります。これは後者の方 の、アーキテクチャ的には最新に分類されるモデルの初期型。TI はアメリカの 高等教育市場に長く浸透して、TI-8x シリーズという主に Z80 や 68000 CPU を 搭載した電卓を作っていました。 電卓と言っても (変な) BASIC でプログラムが組める かなり高性能なもので、日本でいえばシャープやカシオの学校ポケコンみたい なものです。で、その TI-8x シリーズをフルモデルチェンジして ARM コアの CPU を搭載し、解像度を QVGA まで引き上げ、完全に現代的なアーキテクチャ に刷新したのが本機です。一見トチ狂ったかに見えるキーボードも何気に便利 で、数度に渡るファームウェア更新を経て使い勝手も良好。LUA でプログラミ ングもできます。

さて、TI-Nspire シリーズは世代ごとに無印版と CAS 版が存在します。たぶ んハードウェアはほとんど(ひょっとして完全に ?)一緒で、主にソフトが違 うだけなのですが、実はものすごい差で無印版を選ぶ理由は全くない、と言い 切っていいでしょう。そう、CAS ですよ、CAS。Computer Algebra System。 計算を数値ではなく、文字のままやってくれる、Mathematica みたいな、ア レです。 高解像度も相まって感涙ものの スクリーンショットをご覧じあれ。

惜しむらくは RPN じゃないこと。ま、TI の電卓に望むことじゃないか。

豆知識: なぜ TI が電卓?

TI は Texas Instruments の略で、その名の通りアメリカはテキサス州の 会社です。TI が電卓を作っているのは、ひと言で言えば TI が世界屈指の半導体メーカーであるから、なのですが、 じゃあそもそもなぜ半導体なんだ、という 話になります。だってふつう半導体と言えば文字通りシリコンバレー あたりと相場が決まってるじゃないですか。実際アメリカのもう一つの 電卓の雄である HP はシリコンバレー (と言っても HP 創業当時は あの辺はシリコンバレーとは呼ばれてませんでしたが、とにかく そこ) で興った企業です。ついでに Intel も Apple も Google もシリコンバレーです。 一方 TI の本拠地のテキサスと言えば、石油は出るけれど シリコンバレーのようなハイテク企業で育った土地という感じは しません。そう、実は何と TI はもともと石油関連機器の 会社だったのです。 それがトランジスタ黎明期のある日、経営トップが「これからは半導体だ」 と考えて半導体事業をはじめました。半導体の研究には不活性ガスが たくさんいるらしいのですが、石油を掘ると副産物として 最高の不活性ガスであるヘリウムが採れるんだそうです。 そんなわけで TI は安価なヘリウムガスを安定的に確保可能になり、 同業他社に比べて非常に有利な環境で研究を進められました。 こうしてテキサスという土地に異彩を放つ半導体企業が育ち、 これがやがてTI電卓として結実したのでした。

(参考文献: 相田 洋「NHK 電子立国 日本の自叙伝[上]」 日本放送出版協会 (1991), ISBN4-14-008791-9)

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