学科紹介:生命工学科 教員LETTER

分析機器を自作する!?

生命工学科 准教授 大森 勇門 Taketo OHMORI

私が大学生の頃はほとんどの講義が座学で、実験科目以外にグループ活動や実習を行う機会はあまりなかったように思います。ですが今は、PBLと呼ばれる講義形式が多く取り入れられるようになってきました。これはProject (あるいはProblem) based Learningと呼ばれるもので、少人数グループを作り、与えられた課題に対して学生達が自主的に調査・活動し、試行錯誤しながら課題解決することを目的とした講義になります。生命工学科でも各学年向けのPBL科目が開講されており、今回はそのうちの一つ、2年次に開講される生命工学PBL Iについて紹介したいと思います。

この講義は「分析機器を自作し、それを用いて測定を行う」をテーマにしています。自作する分析機器は『吸光光度計』です。簡単にこの機器について説明しますと、液体試料に光を照射し、その光がどれだけ試料に吸収されたかを測定する装置で、液体に溶解している化合物の濃度を求めることができます。

まず学生は吸光光度計とは何か、その原理はどのようなものかという事をインターネットや文献を利用しながら調査します。続いて、図1に示したセルホルダーと呼ばれる部品を3D-CADを使用して設計します。セルホルダーにはLEDランプ、光の強度を測定するためのフォトダイオード、液体試料を入れるセル、これら3つの部品を差し込むための穴が必要になります。もちろん穴の大きさは適当に設定するわけではなく、それぞれの部品の寸法を考慮しながら設計していきます。設計図ができたら3Dプリンターを用いて印刷します。納得できるセルホルダーができるまで何度も設計、印刷を行う班もあります。セルホルダーの作成と並行して、ランプを光らせる、その光を検出する、そして検出した光の強度を電圧に変換する、これらの操作を実行するための回路基板を作っていきます。さらに作成した回路基板とセルホルダーを入れるための筐体(外枠)をスチレンボードで作り、これら全てを組み合わせて各班オリジナルの吸光光度計を完成させます。単なる四角い箱にする班もあれば、凝った形にするところもあります。また、測定試料が簡単に出し入れできるような工夫を施す班もあり、毎年ユニークで面白い吸光光度計が出来上がってきます(図2)。

吸光光度計が完成したらそれで終わりではなく、もちろん今度は自作した吸光光度計を使ってサンプルの測定を行います。なかなかうまく測定できない班もあり、回路やセルホルダーをもう一度見直して、しっかり測定できるように微調整していきます。最終目標は、濃度の分からない色素溶液を分析し、その濃度を測定データから求める、という事です。「手作りの吸光光度計だし、精度の高いデータなんて取れないのでは」と思うかもしれませんが、何十万、何百万という価格で市販されている吸光光度計で測定したデータと比較しても遜色のないデータが出せる吸光光度計もあり、学生以上に教員側が感嘆することも多いです(図3)。

多くの学生は最初、分析装置を自作するという事に対してとても驚きます。「自分たちは生命科学系の分野を学ぶ学生で、機械や電気・電子を学ぶ学科の学生ではないのに、どうして…。」と思うようです。確かに他大学の生命科学系の学部・学科に所属する学生のうち、在学中に分析機器を自作するという経験をする学生はほとんどいないと思います。工学部の生命工学科だからこそできる経験の一つだと思います。装置にしろ、実験手法にしろ、原理を知ることはとても大事なことだと思います。原理を知っていれば自作したり、別のもので代用したりできますし、得られた結果に対して深く考察することができるようになります。また、そこから新しい発想が生まれてくるかもしれません。多くの学生が本を読むだけでしか知ることのできないことを、自分たちで作り上げるという体験を通して学習できるのは本当に良い経験ではないかと思います。この講義がモノづくりの楽しさを実感する機会になると共に、学生実験で何気なく使っている装置や実験書に書かれているままに行っていた操作の原理や仕組みに興味を持って自分で調べて理解を深める、そのきっかけになればと思っています。そういう意識で実験をしていると、やらされているだけでつまらないと思っていた実験もドキドキする楽しい実験に変わっていくと思いますよ。

セルと、学生が作ったセルホルダー

セルと、学生が作ったセルホルダー

学生が作った吸光光度計とその内部構造

学生が作った吸光光度計とその内部構造

あるグループが発表会で報告した検量線

あるグループが発表会で報告した検量線


このページの先頭へ


【大宮キャンパス】〒535-8585 大阪市旭区大宮5丁目16-1 工学部事務室:06-6954-4418
Copyright © Osaka Institute of Technology, 2008 All rights reserved.