学科紹介:環境工学科 教員LETTER

暑さ寒さと環境工学

環境工学科 教授 宮本 均 Hitoshi MIYAMOTO

□若いころプラントの試運転で長期滞在したバスラ(イラク)での最高温度は53℃でした。その後,出張で短期滞在した真冬のモントリオール(カナダ)での早朝の温度は−19℃でしたので,私の体験最高温度差は70℃を超えます。もっとも,当時社内には100℃超えの人たちはたくさんおり,それどころか最近の猛暑・厳寒の気候では,外国まで出かけなくても日本国内で体験最高温度差70℃超えは達成できそうな状況です。

□地球規模でみれば温帯に属する日本でも,夏冬の気候は厳しく,例えば万葉集では山上憶良の貧窮問答歌で冬の寒さのつらさが綴られています(※1)。やや時代が下った吉田兼好の徒然草においては,夏の過ごし難さが的確に表現されています(※2)。現代では耐震上の配慮もあり,窓を小さく,壁は断熱材で厚く覆った形式が省エネ住宅となっています。囲炉裏,雪見障子,風鈴などの暑さ寒さに係わる風情は,実用上の役割を終えて久しくなりました。

□ところで,冬に温熱を得ることは比較的簡単にできるのですが,夏に冷熱(冷却)を得ることは長い間困難でした。冷熱を得る原理を示したのが熱機関で有名なフランス人のNicolas Léonard Sadi Carnot(1796−1832)ですが,実現したのは1834年,米国人のJ. Perkins(1766−1849)によると言われています。統計によれば日本で冷蔵庫の世帯普及率が50%を越したのが1965年,エアコンの世帯普及率が50%を越したのが1985年となっています(※3)。すなわち,人類の長い歴史の中で,自由な温度調整機能を手に入れたのはほんの数十年前ということになります(※4)。

□先人の苦労を体験しようと作ったのが写真-1の装置で,材料が揃ったあと,組み立てはわずか2〜3日で終わりました。配管内にアルコールを設計通り5〜8mL注入し(実際には圧縮機の負圧を利用した自吸)圧縮機を運転すると,圧力と温度のデータより写真1の右側のようなp-H線図を描くことができ,反時計周りの冷凍サイクルを逆カルノーサイクルと呼ぶ理由がよくわかります。この装置は私の製作した装置としては珍しく,手直しなしで作動したのですが,これは設計がすばらしかったのではなく,ノンリークの高性能圧縮機(真空ポンプ)と配管,弁などが現代では簡単に手に入るからです。

□太陽光発電を利用した室内冷房のエネルギーバランスを図-1に示します。単位は記入してありませんがkWと考えて下さい。室内を3kW冷却することでミクロにみるとエントロピーの減少系が達成されていますが,室内室外でマクロに見ると1kWの電気が1kWの熱に変化しているだけで,エントロピーは増大しています。なお,図-1の場合,雨の日や夜にエアコンを動かすと,どこかの発電所で1時間当たり約0.5kgのCO2を排出し続けることになります。

□環境工学科の演習の一部としてヒートポンプ(エアコン)の計測/計算演習を行っています。写真-2はその様子ですが,この演習では地球のまとう衣類(すなわち熱的境界条件)の役割としてのCO2の功罪,オゾン層破壊要因であるフロンなどの地球規模の問題の確認講義に続いて,ヒートポンプ実機を対象とした風量,温度,湿度計測を行います。その結果をもとに圧力−エンタルピー線図上のサイクル図,室内側/室外側の空気線図上の変化図の作成,エネルギー効率(COP)の計算など,将来の社会での活躍を期待して,エネルギー分野の知見の習得を目指しています。

※1 万葉集 貧窮問答歌は次のサイトからでも読むことができます。
http://www.geocities.jp/sybrma/51hinkyuumondouka.html
※2 徒然草(第55段)は次のサイトからでも読むことができます。
https://roudokus.com/tsurezure/055.html
※3 耐久消費財の世帯普及率の推移 (帝国書院)
https://www.teikokushoin.co.jp/statistics/history_civics/index13.html
※4 冷凍の原理は,ほかにも塩濃度による化学ポテンシャルの差を物質移動に利用した吸収式やペルチェ効果を利用した熱電素子方式があり,それぞれの特徴と規模に応じて実用化されています。

写真-1  冷凍サイクル原理装置(系統図で青=液状態 赤=ガス状態)とP-H線図

写真-1 冷凍サイクル原理装置(系統図で青=液状態 赤=ガス状態)とP-H線図

図-1 太陽光発電を利用した冷房時のエネルギーバランス

図-1 太陽光発電を利用した冷房時のエネルギーバランス

写真-2 ヒートポンプ演習の様子(追加の木箱は藤原講師の力作)

写真-2 ヒートポンプ演習の様子(追加の木箱は藤原講師の力作)


このページの先頭へ


【大宮キャンパス】〒535-8585 大阪市旭区大宮5丁目16-1 工学部事務室:06-6954-4418
Copyright © Osaka Institute of Technology, 2008 All rights reserved.