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古典文学の未来をひらく情報科学

情報システム学科 
准教授 横山 恵理

横山 恵理
2019.02.27
  • 多様な文学学習アプリ(須永宏先生研究室)

    多様な文学学習アプリ(須永宏先生研究室)

  • 信貴山縁起絵巻データベース(平山亮先生研究室)

    信貴山縁起絵巻データベース(平山亮先生研究室)

  • 桜ライブキャストにて連載「そらみつ文庫」

    桜ライブキャストにて連載「そらみつ文庫」

古典って、難しい?
 皆さんは「古典文学」というと、何をイメージしますか?
 文法が難しい、ストーリーが現代の感覚とかけ離れていて理解できない等、苦手意識をもつ学生さんの声をよく耳にします。けれども、実は、皆さんが楽しんでいる小説や漫画、歌詞、アニメ映画、ゲームの中に、古典文学はあふれているのです。
 例えば、新海誠監督による長編アニメーション映画『君の名は。』(2016年8月公開)は、もともと『夢と知りせば(仮)―男女とりかえばや物語』という題で企画されたといいます(注1)。「夢と知りせば」は、平安時代の女流歌人・小野小町によって詠まれた「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」(訳:あなたのことを思いながら眠りについたからでしょうか、あなたが夢に出てきたのは。夢と知っていたならば目を覚まさなかったものを)という、夢の中で男女が出会う和歌に基づく言葉です。「男女とりかえばや物語」は、平安時代後期に成立した『とりかへばや物語』という、男女の入れ替わりを題材にした物語から着想を得たことを示しています。
 同じく新海誠監督の作品『言の葉の庭』(2013年5月公開)には『万葉集』所収の柿本人麻呂の和歌が引用されていて、長編アニメーションを通して古典文学の瑞々しい感性が現代に蘇る様子を目にすることができます。これらの作品には、古典文学の世界と現代を生きる私たちとの間に通じる心が描き出されているといえるでしょう。このほか、『けものフレンズ』には室町時代成立『鼠草子』のように擬人化された動物が描かれる作品が、『刀剣乱舞』や『FGO(Fate/Grand Order)』に登場するキャラクターはそれぞれが有する歴史背景が下敷きとなって、現代に生まれ変わっています。
 皆さんが親しんでいる様々な作品に描かれた人の心やキャラクターは、ときに時代を超えて共有することができます。このように考えると、はるか遠い時代に書かれた物語も身近なものとして感じられませんか?

古典文学×情報科学
 さて、授業や学生プロジェクトでは、情報科学ご専門の先生方にお力添えをいただきながら、古典文学と現代をつなぐ試みに挑戦しています。
 具体的には、「小倉百人一首学習アプリ」(情報システム学科・須永宏先生研究室)や「源氏物語絵巻パズル」(同研究室)等のようにゲーム性を取り入れつつ学習支援ツールとして有効に機能するアプリケーションの開発、「信貴山縁起絵巻データベース」(情報メディア学科・平山亮先生研究室)や「VR伴大納言絵巻」(ネットワークデザイン学科・矢野浩二朗先生代表・Smart Learning Lab)のように、平安時代成立の絵巻物をより分かりやすく、より魅力的に伝える技術の開発に参加させていただいています。また、奈良県吉野郡川上村との連携事業「桜ライブキャスト」(ネットワークデザイン学科・山内雪路先生代表)では、吉野・川上村にまつわる文学作品のWEBサイト連載(注2)を通し、情報科学や文学が地方創生とどのように関わっていけるかについて考えています。いずれも、情報科学やメディアに詳しい学生の皆さんから教わることが多く、皆さんが古典文学を通して社会とつながる上で大きな可能性を秘めた取り組みだと実感しています。
 情報科学と古典文学の融合は、2016年11月の「日本古典籍データセット」(人文学オープンデータ共同利用センター)公開により、多くの古典籍の画像データが利用可能となったことをきっかけとして急速に進んでいる、今後の発展が期待される研究領域です。情報科学を専門に研究する皆さんと一緒に、古典文学を現代に、そして未来につなげるお手伝いができればと願っています。

(注1)「映画『君の名は。』公式サイト」(閲覧日:2019年2月22日)
(注2)奈良県吉野郡川上村・大学連携事業「桜ライブキャスト」