●藤元先生の半導体物性デバイス研究室では、どのような研究をしていますか?
グラフェン(Graphene)などの二次元材料を用いて、半導体デバイス(半導体材料を用いた素子)やガスセンサーなどへの応用に取り組んでいます(写真1)。
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(写真1)グラフェンを使った半導体デバイス。中央の黒く細い線がグラフェン。光学顕微鏡で撮影
●二次元材料とはどのようなものですか?
究極に薄い物質です。例えばグラフェンは炭素原子1個分が網目状に並んだシートで、厚みは約0.3ナノメートルです(1ナノメートルは100万分の1ミリ)。超極薄ですが、強じんで、電気をよく通し、ほぼ透明という特徴があります(写真2、3)。
このグラフェンの研究で2010年、イギリスのマンチェスター大学の2人の博士がノーベル賞を受賞して注目を集めました。グラファイト(黒鉛)をスコッチ®テープで貼ってはがすという作業を繰り返してグラフェンを取り出したことで話題になりました。このほか、二硫化モリブデン(MoS₂)(写真4)などの「遷移金属ダイカルコゲナイド」という層状物質も、薄膜化することができ、二次元材料となり得ます。
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(写真2)グラフェンの結晶構造の模型。緑の球は炭素原子に相当 -
(写真3)市販の化学的気相成長法で作製されたグラフェン。グラフェンは銅板上に成長させた状態で製品化されている。使用する時は銅板ごと切り離し、薬品に入れて銅を溶かしてグラフェンのみを取り出す -
(写真4)二硫化モリブデン。多層構造になっていて、簡単に薄膜化することができる
●なぜ、二次元材料が注目されているのでしょうか?
スマートフォンやパソコンなどの電子機器が増え、使われる電気の量が増えています。そこで、できるだけ少ない電力で動く機械や部品が求められています。性能を向上させるためにどんどん小型化しているのですが、従来材料のシリコンはこれまで以上に微細化することが難しく、代替材料として二次元材料に期待が集まっているのです。
●研究室ではどんな物を作っているのですか?
一例として、グラフェンとMoS₂を組み合わせてファンデルワールスヘテロ接合と呼ばれる構造を作り、トランジスタ(電気信号の増幅やスイッチ〈オン/オフ〉を行う半導体素子)を作りました(写真5)。グラフェンとMoS₂はとても薄い層なので、重ねると「ファンデルワールス力」という弱く引き合う分子間力でくっつけることができます。通常、異なる性質の材料を組み合わせるには大掛かりな装置が必要ですが、二次元材料は重ねるだけで簡単に接合できるのが魅力です。異なる性質の材料を組み合わせると、新たな機能を持たせることもできます。
トランジスタは以下のような手順で作製しました。最初に、電子ビーム蒸着装置を使って、シリコン基板の上に厚さ約1ナノメートルのMo(モリブデン)の膜を作ります。その後、このMo薄膜と硫黄の粉を加熱炉に入れて800度で加熱して反応させ、MoS₂を作製し(図1、写真6)、その上にグラフェンを重ね、微細加工を行い、トランジスタを作製しました。
電気の流れをコントロールするために酸化膜(Oxide)を用います。その酸化膜として「酸化シリコン」と「酸化アルミニウム」の2種類を試して、素材による性能の変化も調べました。その結果、電流の変化を示すグラフが酸化シリコンでは直線で線形的になったのに対して、酸化アルミニウムでは曲線で非線形性を示し(図2)、トランジスタに適した性能を作り出すことができました。材料の組み合わせによりトランジスタの特性を大きく変えられることが分かり、高性能な半導体デバイスの開発につながる重要なヒントを得ることができました。
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(写真5)グラフェンとMoS₂を組み合わせて作製したトランジスタの光学顕微鏡による写真。中央の青黒い箇所がグラフェンとMoS₂のファンデルワールスヘテロ接合 -
(図1)電子ビーム蒸着装置や加熱炉を用いてMoS₂を作製 -
(写真6)青い装置の加熱炉の中のガラス管に硫黄粉末とMo薄膜を入れて真空状態にして加熱し、MoS₂を作製する -
(図2)左図はグラフェンとMoS₂を組み合わせて作製したトランジスタの構造図。右図は電流-電圧特性。酸化シリコンでは電流の増え方が直線で線形的、酸化アルミニウムでは曲線で非線形になった。
●応用として取り組むガスセンサーの研究についてもお聞かせください。
ガスセンサーは環境汚染対策や病気の早期発見につながることから市場が拡大しています。二次元材料は厚みがないため、外界の影響で電子状態や電気特性がすぐに変化します。この性質を利用して、ガスセンサーに用いられることが期待されています。例えば、グラフェンの表面に二酸化窒素などの酸化性ガス分子が吸着すると、グラフェン内の電子が奪われてしまい、電気抵抗が変わります。そこで、グラフェン単体と、グラフェンとMoS₂のファンデルワールスヘテロ接合させたもので 二酸化窒素ガスに対する反応を調べました。その結果、グラフェン単体でも電気抵抗の変化が確認でき、グラフェンとMoS₂のファンデルワールスヘテロ接合ではグラフェン単体に比べて更に大きな電気抵抗の変化が現れることが分かりました。
また、ヒトの血液中の一酸化窒素をリアルタイムでモニタリングできるセンサーの開発にも取り組んでいます。このほか、MoS₂に他の遷移金属をわずかに添加(ドーピング)すると、磁石の性質を持たせることができる可能性もあるので、この変化を利用して記憶素子や光デバイス、LEDなどへの応用にも挑戦していきたいと思っています。
実験の面白さは意外な結果が出てくることにあります。半導体と物理をキーワードに、学生の柔軟な発想を大切にしながら、今後も楽しく教育と研究を進めていきます。



