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研究室VOICE 豪雨災害に備えるマンホールの水位計測システム

工学部

Profile

工学部電子情報システム工学科

熊本 和夫教授

通信システム研究室

●マンホールの水位を測るシステムを開発しておられるそうですね。

 スマート防災につながる研究で、マンホール内のタラップをアンテナとして水位計測できる新型センサーの開発に取り組んでいます。仕組みを説明する前に、なぜマンホールにセンサーが必要かという説明をしましょう。
 「内水氾濫(ないすいはんらん)」という言葉は聞いたことがありますか? 都市に線状降水帯やゲリラ豪雨などが発生して、大量の雨水が下水管に一気に流れ込むと、排水能力を超えてマンホールから水があふれ、住宅地などが浸水することがあります。これが内水氾濫です。急激な増水により、マンホールから水が噴き出したり、蓋が飛んだりします(動画)。蓋が当たれば大けがをしますし、穴に落ちる事故や汚水による健康被害も懸念されます。
 線状降水帯やゲリラ豪雨による水害は近年増えています。季節は夏だけでなく春や秋も発生し、場所も太平洋側だけでなく日本海側でも増えています。豪雨災害の増加に伴い、マンホールの水位を把握することから防災につなげようという動きが出ています。マンホールの水位は人間が巡回して直接計測することがありますが、作業員の確保や災害時には危険が伴います。そのため、新しい技術として、①超音波や電波を利用した水面計測②カメラ監視③水圧センサー、が出てきました。しかし、いずれも比較的高額であることや機器がマンホール内の汚水により腐食するという課題もあり、導入はなかなか進んでいないのが実情です。

  • (動画)管内の水位が急上昇するとマンホールから水が噴き出す。動画は、安全性の高い浮上飛散防止機能付きの蓋を取り付けた試験状況を撮影=ヒノデホールディングス・日之出水道機器株式会社協力

●熊本研究室ではどんなシステムを考えたのですか?

(図1)マンホールの構造は規格化され、内側にはタラップが付いている
 マンホールそのものをセンサーとして使えないかと考えました。マンホールは内径や深さなどが工業規格で決められています。全国に1500万個もありますが、規格は10種類ほどしかないのです。マンホールの構造図を見ていて、メンテナンス時に使用する管内の金属製タラップを「八木アンテナとして応用できないか」とひらめきました(図1)

●八木アンテナ……? どんなアンテナですか?

(写真)八木アンテナ
 八木アンテナは一般家屋の屋根の上でよく見る、魚の骨のような形をしたアンテナです(写真)。私は無線通信を専門とすることから、普段から街を歩いているとアンテナに目が行き、金属の棒が平行に並んでいるとアンテナに見えてきます。
 八木アンテナはある方向から届く電波だけをつかまえたり、ある方向に向けて電波を送ったりすることができます。平行に並ぶ棒(エレメント)で電波をつかまえて給電点へ送り込んだり、給電点から出る信号を送ったりします。エレメントの本数が多いほど送受信する電波が強くなります。

●タラップをどのようにアンテナとして利用しますか?

 マンホールのタラップは10本あるので、上から2本目に給電点を設置して電波を発信します。すると、残りのタラップで電波を送る動きが起きます。電波は水中には届かないので、水面より上にあるタラップがエレメントとして機能します。水位によってエレメントの数が変わり、電波の強度が変化すると考えました(図2)
 塩ビパイプにアルミテープを巻き付け、実際のタラップの半分程度のサイズ(横幅15cm×奥行7cm、タラップの間隔5cm)で実験用の試作品を作りました(図3)。そのタラップを直径65cmのポリバケツに入れ、注水して電波変化を測定したのです。エレメントの数は実物と同じ10本とし、上から2本目の給電点から2.4ギガヘルツの信号を発信しました。水位が上昇してエレメントとして機能するタラップの本数が減ると、電波が減少することが確認できました(図4)

  • (図2)マンホールのタラップをアンテナとして利用するイメージ。水位が上がってタラップの一部が水没するとエレメントの数が減り電波強度も変化する
  • (図3)タラップ型アンテナの試作品
  • (図4)注水時の電波の変化。水位が上がると電波が弱くなっている

●八木アンテナを応用可能と確認できたのですね。

 そうです。そこで、この水位検出システムと水位検出方法を特許申請しました。しかし、現実に役立てるには、まだまだ実験を重ねなければなりません。例えば、電波は水面に当たると反射するので、水位と反射電波の変化も調べる必要があります。水位が上がると給電点と水面の距離が近づき、反射する電波は強くなると予想したのですが、実際は弱くなりました。電波が電子レンジのように水を温めることに使われたのかもしれませんし、発信する電波の強さに打ち消されてしまったのかもしれません。あるいは、アンテナを正確に機能させるにはそのアンテナに合う周波数の電波を用いなければならないのですが、2.4ギガヘルツは適していなかったのかもしれません。

●実用への課題をどのように考えていますか?

 現在は実験室でマンホールを模した実験とコンピューターを使ったシミュレーション評価にとどまっているため、実際のマンホールに近い環境での実験やシミュレーションでの証明が必要です。また、これまでは真水を使用した実験結果のため、泥水などを用いた評価にも取り組んでいきます。通信技術を利用した安価でメンテナンスの容易な計測システムを完成させ、全国のマンホールで防災に役立てられるよう引き続き研究を進めていきます。