●学生が面接の練習に使えるシステムを開発されているそうですね。
 CGで作成したキャラクター(エージェント)が面接中の行動をアドバイスするシステムのことですね。大学には学生の就職を支援する部署がありますが、面接官の人数や対応できる時間には限りがあります。また、学生からは「対面は照れくさい」「ダメ出しされるのが嫌」という声もあり、1人で練習できれば便利だと考えました。話す内容については添削で指導することができますが、姿勢や視線、ジェスチャーといった非言語行動は無意識に行われるため、自分では気づきにくいものです。そこで、面接中の行動を評価するシステムの開発に取り組みました。
 パソコンの周囲に4台のウェブカメラを設置し、学生が自己紹介する様子を1分間撮影します。正面・側面・顔のアップ・俯瞰(ふかん)の映像から、手足の位置や動き、姿勢、表情、視線などを解析します。例えば、「太ももと背中の角度」や「足やひじの開き」「口角の動き」「黒目の動き」などを分析し、改善点を洗い出します。撮影した動画は、エージェントが一時停止しながら改善点についてフィードバックを行います(写真1)(図)。
					
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						  (写真1)撮影した動画を一時停止しながらエージェントがフィードバックを行う 
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						  (図)横から撮影した映像から、「太ももと背中の角度」など姿勢の特徴を解析する 
●フィードバックする時の工夫はありますか?
		 フィードバックに「アサーティブコミュニケーション」を取り入れています。これは、相手の立場や意見を尊重しつつ、自分の意見や感情を伝える手法で、相手の自尊感情の向上やストレス低減に効果があるとされています。ネガティブなフィードバックを伝える必要がある面接指導に適した手法だと考えました。
	
	 例えば、猫背になっていることをフィードバックする場合は以下のような話し方になります。
「この時、猫背になっています。このままでは、自信がないように見え、どんなにいい話をしたとしてもギャップを感じてしまうのでもったいないと思います。ですので、あごを引いて背筋を伸ばし、下腹部に力を入れてみましょう。姿勢を良くすることで、印象も良くなり、自信があるように見え、説得力が増すでしょう」(動画1)
					
	 一方、感情を出さずに事実だけを伝える「アサーティブコミュニケーションの要素を省いた統制条件」では、以下のような話し方になります。
「この時、猫背になっています。猫背は自信がないように見られますので、あごを引いて背筋を伸ばし、下腹部に力を入れてみましょう」(動画2)
 両方のフィードバックについて、学生の反応を比較しました。落ち込みやすいタイプはアサーティブ条件を好み、失敗しても前向きに取り組むタイプは統制条件を好む傾向がありました。また、アサーティブ条件の方が、次回の面接でフィードバックを受けた点が改善する即効性も確認されています。
●開発での苦労や工夫した点を教えてください。
		 フィードバックが多過ぎると学生が混乱するため、システムには改善すべき点を4~6個に調整する機能を付けました。7個以上ある時は内容を絞り、優先順位を付けて重要なことから伝えていくよう設定しています。
	 工夫した点については、エージェントの表情やジェスチャーに人間らしさを感じられるようにしました。例えば、話を聞く時の視線や、うなずくタイミング、指差しなどに人間が自然かつ無意識にとっている非言語行動をルール化して取り入れています。
 このようにロボットやエージェントに人間らしさを感じる技術の開発と評価が、私の主な研究テーマでもあります。人手不足が進む中、接客や介護、カウンセリングなどの分野で、より人間らしいロボットやエージェントのニーズが高まっています。人間らしいと感じる非言語行動があることで、利用者は「聞いてくれている」「気持ちを分かってくれている」と感じ、安心してコミュニケーションが取れるようになるからです。
					
	●ところで、研究室にはダンベルや懸垂器具がありますね。なぜでしょうか?
		 それは、楽しく筋トレできるシステムの開発に取り組んでいるからです。新型コロナウイルスの影響でジムに通えなくなった学生のアイデアをきっかけに、研究がスタートしました。自分の顔写真を使ったアバターを等身大でスクリーンに映して筋トレします。トレーニング中にアバターを徐々に筋肉質に変えると、ダンベルを軽く感じられるようになりました。特に、自己愛傾向が高い人ほどその効果が強く表れることも確認されました。
	 この現象は「プロテウス効果」と呼ばれています。プロテウスとは、ギリシャ神話に登場する変身能力を持つ海神の名前に由来しており、魅力的なアバターを使用すると、そのアバターの見た目が操作する人の行動や態度にポジティブな影響を与えることが示されています。プロテウス効果は世界的に注目されているテーマで、さまざまな研究が進んでいます。私たちの研究室では現在、以下のようなテーマに取り組んでいます。
 ・自らの行動が引き金となってアバターが魅力的に変化する場合、プロテウス効果の現れ方にどのような違いが生まれるのか
 ・人間ではなく、筋肉質なアバターが応援してくれる環境で筋トレを行っても筋トレの持続効果がみられるのか
 このように、アバターと人間の心理・行動の関係性を探ることで、より効果的で楽しい筋トレ支援システムの開発を目指しています。(写真2、3)
					
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						  (写真2)筋トレしながら大きな声を出したり、強い力をこめたりすると、アバターが筋肉質に変身する 
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						  (写真3)懸垂器具で筋トレ中に、筋肉質アバターが励ますことにより筋トレをより持続させることができるかの実験中 
 
			



