情報フォトニクス研究室では光技術と情報技術の融合による新しい材料作製や解析技術の開発を目指しており、顕微鏡、レーザーをはじめとする光学機器を使った研究を行っています。その中からレーザーを用いた新しい有機ナノ材料の作製を目指した研究について紹介します。
ナノの世界で変わる物質の常識
金(Gold)というと、普通は黄色味がかった光沢のある金属を思い浮かべると思います。ところが、金の塊をインフルエンザウイルスほどのサイズ、およそ百ナノメートルより小さくすると、金は鮮やかな赤色に変化します(図1)。 この鮮やかな発色は、ナノ粒子中の電子が光のエネルギーに共鳴して集団で振動する「局在表面プラズモン共鳴」と呼ばれる現象によるものです。 また直径が数ナノメートルくらいの半導体の微粒子は「量子ドット」と呼ばれ、そのサイズに応じて様々な色に発光する性質が現れます。このようにナノスケールでは、物質中の電子の振る舞いが劇的に変化することが明らかになっており、超高感度バイオセンサーや次世代の半導体デバイスなどへの応用が期待されています。
身近な有機材料の可能性
一方、身近にあふれるプラスチックや塗料といった有機材料の場合は、電子がもともと小さな一つの分子の中に強く束縛されています。このため、有機材料はナノサイズまで小さくしても、無機材料のような劇的な性質の変化は現れないと考えられていました。 しかし、有機ナノ粒子の性質を詳細に計測したところ、様々な性質の変化が現れることが明らかになっています。
有機材料を使ったデバイスは、軽くて柔軟、さらに製造時の環境負荷も低いことから、優れた特性を有する有機材料の開発は持続可能な社会の実現に欠かせません。ナノ粒子化することで、既存の有機材料から従来よりも優れた特性を引き出せる可能性があります。他にも、水に溶けにくい塗料や医薬品などをナノ粒子にすれば、溶媒への分散性が向上など、機能と利便性が大きく高まることが期待されます。
有機ナノ粒子生成技術の課題
ナノスケールで新しい機能を発揮する有機材料ですが、実用化には大きな壁がありました。それは、種類が非常に豊富な有機材料に対して、誰もが使える汎用的なナノ粒子作製法が確立されていないことです。また、ナノスケールでの物性変化のメカニズム解明も遅れていました。
レーザーで有機結晶をナノサイズ化する新技術
私たちは、この課題を解決するため、液体のなかに分散させた大きな有機結晶にレーザーを当てるだけで、ナノサイズまで簡単に細かく砕く手法を開発しています(図2)。 このレーザー照射に誘起される粉砕のメカニズムは、有機結晶を構成する分子の性質によって異なる可能性を報告しており、その系統的な理解を進めています。 さらに、この知見を実用化するため、製薬会社などの企業と共同研究を行い、新薬の効率的な開発や、機能性材料への応用を目指しています。



