皆さんは『フレデリック』という絵本を知っていますか?『スイミー』で有名なレオ・レオニの作品で、冬ごもりの準備をするねずみたちのお話です。仲間が一生懸命食料や寝床の藁を集める中、フレデリックは日光浴をしたり、景色を眺めたりしています。怠けているように見える彼は、冬に備えて、太陽の光を、色を、言葉を集めているのだといいます。その意味が分かるのは、冬がやってきてからでした。徐々に食べ物も藁も減っていくなか、フレデリックの集めた光や色、言葉が、冷たく暗い灰色の冬を過ごすねずみたちの心を彩り、温めていきました。
同じ冬ごもりの話である『アリとキリギリス』とは違い、『フレデリック』のねずみたちは“働き者か怠け者か”という単純な区別では語れません。働き者のねずみたちが集めたものも、変わり者のフレデリックが集めたものも、どちらも冬を乗り越えるために必要なものでした。
大学生活を送る皆さんの中にも、授業や課題、アルバイトといった現実的なタスクをこなす働き者のねずみがいることと思います。でも、好きなものに夢中になる時間や、ぼんやりと何かを感じるひと時も、あなたの中のフレデリックが大切にしているものです。生産性やコスパ・タイパが重視される今だからこそ、心の中の少し余白を残しておくこと、それがあなたを支えるものになるかもしれません。あなたの中のフレデリックは何を集めていますか?
参考図書:レオ・レオニ作 谷川俊太郎訳『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』(1969年 好学社)
学生相談室カウンセラー 兵頭 俊宏



