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ニュース 光合成細菌をヒントに光エネルギーの流れを制御する新材料を開発 空気中で円偏光アップコンバージョン発光を実現

ニュースリリース プレスリリース プレスリリース(先端研究) , 工学部.応用化学科

NEWS RELEASE【No.20】

 大阪工業大学(学長:井上晋)応用化学科の平井智康准教授、柏原 航講師、化学・環境・生命工学専攻博士前期課程2年の篠田永遠大学院生、峯 麻友大学院生(当時)、台湾の国立陽明交通大学(学長:林 奇宏)の李 明家准教授、林 珈伃学部生らの研究グループは、光合成細菌のメカニズムに着想を得て、光を受けた分子のエネルギーの流れを制御する新しい材料を開発しました。高分子が形成するらせん状のナノ空間を利用した材料で、低いエネルギーの光をより高いエネルギーの光へ変換する「フォトンアップコンバージョン(TTA-UC)」と、右回りあるいは左回りのらせんを描くように振動する光「円偏光発光(CPL)」を同時に実現しました。また、TTA-UCには酸素が大きな阻害要因となりますが、素早いエネルギー移動を実現したことにより、空気中での観測を可能とする画期的な成果を上げました。

 本研究の成果は、2026年10月2日付で米国化学会(ACS)の化学系トップジャーナル『Journal of the American Chemical Society』に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 緑色硫黄細菌の光捕集機構に着想を得て、立体規則性の異なる高分子から、発光分子を取り込めるらせん状ナノ空間を構築
  • ナノ空間を利用した光エネルギーの制御により、酸素に阻害されない素早いエネルギー移動を実現
  • 空気中でTTA-UCによる光エネルギー変換と、キラルなナノ空間によるCPLを同時に実現
  • 空気中で実現した円偏光アップコンバージョン発光
    空気中で実現した円偏光アップコンバージョン発光

 「光合成」という言葉から、一般には植物がイメージされます。しかし、光合成を行うのは植物だけではなく、一部の細菌も光合成を行います。例えば、緑色硫黄細菌は、光の届きにくい硫黄が豊富な湖沼や温泉などに生息し、酸素を発生しない独特な光合成を行います。緑色硫黄細菌は、限られた光エネルギーを効率よく利用するために、色素分子を規則正しく集積させた特徴的な光捕集構造を形成しています。このような生体内の光捕集系では、色素分子が無秩序に存在するのではなく、ナノメートルスケールの規則的な空間に配置されることで、光エネルギーを効率よく伝達することができます。

 本研究では、この「分子を規則的なナノ空間に配置することで、光エネルギーの流れを制御する」という自然界の仕組みに着想を得ました。この発想に基づき、立体規則性の異なる高分子から形成される複合錯体※1を利用し、光を取り込む分子(捕光分子)と光を発する分子(発光分子)を取り囲むらせん状のナノ空間を構築しました。このナノ空間内では、捕光分子が光エネルギーを一時的に蓄えた状態(励起状態)となり、そこから発光分子へエネルギーが移動します。

 本研究では、このエネルギー移動の速度に加えて、発光分子間で起こるエネルギー移動の速度も速められることを発見しました。これにより、酸素によりエネルギーが失われる(失活)よりも速くエネルギーを受け渡すことが可能となり、酸素が存在する空気中でも効率よくエネルギーを利用できることが分かりました。その結果、低エネルギーの光を高エネルギーの光へ変換するTTA-UCを空気中で実現するとともに、キラル※2ならせん状ナノ空間によって、光の偏光状態がらせん構造を反映する円偏光発光も同時に実現することに成功しました。

 本研究は、「分子そのものを変える」のではなく、「分子が存在するナノ空間を設計する」ことで、酸素による失活とエネルギー移動との競争関係を制御し、光エネルギーの流れと光の偏光状態を同時に制御する、新しい材料設計の考え方を示したものです。この技術を応用することで、太陽光を利用したエネルギー変換材料や、偏光を利用した発光・光情報デバイスなどへの展開が期待されます。また、今後、ナノ空間に組み込む分子の種類や組み合わせを変えることで、さまざまな波長の光を利用・変換できる新しい光機能材料の開発につながることが期待されます。

実験動画(YouTube)

 532ナノメートルのレーザー光(緑の光)を試料(ピンク色のゲル)に照射すると、低エネルギーの光がより高エネルギーの光へ変換されるアップコンバージョン発光(青白い光)が観察されます。立体規則性の異なる高分子から形成されたらせん状ナノ空間内に発光分子を組み込んだことにより、エネルギー的に安定な状態から不安定な状態へと変わる時のエネルギー移動を制御し、空気中での素早いTTA-UC発光を示したものです。

用語説明:

※1 錯体
 中心となる原子やイオンに別の分子やイオンが結び付いた化合物。

※2 キラル
 右手と左手の関係のように、鏡に映った像を重ね合わすことができない性質をもつ分子のこと。

 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C) JP22K05245及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究開発事業JPNP20003、OIT研究ファンドにより推進されました。

論文情報

論文名 Helical Nanocavity-Driven Upconversion Circularly Polarized Luminescence with Efficient Triplet Dynamics in Poly(methyl methacrylate) Stereocomplexes

(和訳:ポリ(メタクリル酸メチル)ステレオコンプレックスにおける、効率的な三重項ダイナミクスを実現するらせん状ナノ空間駆動型アップコンバージョン円偏光発光)

著者名 Towa Shinoda, Mayu Mine, Wataru Kashihara*, Arisa Gono, Ayano Tokoroyama, Chia-Yu Lin, An-Ting Pan, Noboru Ohta, Yoshinobu Nakamura, Syuji Fujii, Tatsuo Nakagawa, Hiroaki Hanada, Ming-Chia Li*, Tomoyasu Hirai* (*責任著者)

雑誌名 Journal of the American Chemical Society

DOI 10.1021/jacs.6c16205

URL https://doi.org/10.1021/jacs.6c16205

公表日 2026年10月2日(オンライン公開)

■内容に関するお問い合わせ先
 大阪工業大学 工学部応用化学科 准教授 平井智康
 TEL: 06-6167-5125(不在の場合は学校法人常翔学園広報企画課へ)

■本件発信部署・取材のお申し込み先
 学校法人常翔学園 広報企画課(担当:石村、長谷川)
 TEL: 06-6954-4026 Koho[at]josho.ac.jp
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