少し前のことになりますが、ラジオを聞いていて、ふと耳にとまった言葉がありました。“You are enough.”という言葉です。確か、海外で活躍する舞台俳優の方へのインタビューの中でその言葉が出てきました。舞台の幕が上がる前に、共演者と”You are enough.“と互いに声をかけ合うことで、本番前の緊張を和らげ励まし合う、そういう話だったと思います。“enough”という単語は「十分な」という意味で覚えている人が多いのではないかと思いますが、“You are enough.”とは、「あなたはそのままで十分素晴らしい」という意味だそうです。短いフレーズの中に、ふと心が軽くなるようなメッセージが感じられて、とても印象に残っています。
　私たちは日頃、自分自身に対しても、周りの人に対しても、「もっとこうだったら」と思うことがよくあります。その「もっとこうだったら」という思いは、時に向上心につながったり、成長のための後押しになったりもしますが、一方で、その「もっと」に苦しめられることもあります。「もっとこうしたいのにどうしてできないんだろう…」と自己嫌悪に陥ったり、「もっとこうしてほしいのにどうしてできないんだ」と相手を追い詰めてしまったり。私たちは気づかぬうちに、「もっと」を求めすぎてしまうところがあるのかもしれません。
　どうもうまくいかない、行き詰まってきたな、そういう時は、「もっと」という思いを一旦手放して、一度、自分自身に、そしてあなたの近くにいる人に、この“You are enough.”という言葉を投げかけてみてください（心の中でこっそり、で構いません）。この言葉が、ささやかながら助けになってくれるのではないかと思います。普段はつい忘れてしまいがちですが、あなた自身も、あなたの近くにいる人も、どんな人も、そのままで十分素晴らしい、そんな人のはずです。

学生相談室カウンセラー　重田　智