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意思決定を支援するAI技術:~重要なこと、どう決断してますか~

情報知能学科 
教授 尾崎 敦夫

尾崎 敦夫
2019.01.07
  • 意思決定メカニズム(モビリティシステム)

    意思決定メカニズム(モビリティシステム)

  • 応用例(危機管理システムへの適用)

    応用例(危機管理システムへの適用)

  • 応用例(スマートモビリティ社会の実現)

    応用例(スマートモビリティ社会の実現)

はじめに
人はいつでも意思決定に迫られています。
喉が渇いたから何を飲もうか、お腹が空いたから何を食べようか、といった些細な事から、ビジネス上の重要なことまで、常に意思決定を迫られています。逆に言うと、今まで意思決定してきた結果が今の自分なのでしょう。人生が変わるような場面や、重要なビジネス・プロジェクトでは、人は少しでも成功するがために何かしらの指標やアドバイスを欲しますが、大抵の場合、必要な情報が充分に得られていなかったり、判断に必要な知識が不足していたり、判断基準が不明確だったりします。それを手助けする有望な技術の1つがAI(人工知能)技術です。AI技術といっても、近年トレンドのデータの力で解く手法から、ロジックに基づいて解く手法、シミュレーションにより予測する手法、ヒューリスティックに基づき解く手法、確率論に基づき解く方法、等々様々です。どの手法も一長一短があり、例えば、性能・精度、演算量、解釈・説明性などの視点に基づき、対象とする問題に応じた手法を選択することになります。

研究テーマ
当研究室では、危機管理システムでの意思決定支援を目的とした要素技術の研究開発を主要テーマとしています。上記に挙げたどの視点も重要ですが、特に人命を左右する状況を対象とする場合は、「解釈・説明性」が最重要となります。即ち、なぜそのような(判断)結果が得られたかが分かり易く理解できる手法を用いるということです。但し、その判断を下すための材料(土台)となる情報は高精度であるべきです。信頼性の低い土台であればそれに基づく(判断)結果も揺らいだものとなります。このため、センシングして得たデータから目標対象物を「認識」する土台部分に関しては、解釈・説明性よりも「性能・精度」の高い手法を用いるのが適当と考えます。即ち、危機管理システムにおいても適用するAI技術は適材適所ということです。
 このようなシステムでは、まず状況を正確に『認識』した後、将来の状況を高速に『予測』して、「実行」に移することが求められます。しかし、人命を左右するミッションクリティカルなシステムでは「実行」(意思決定)までをも全てAI化するには多くの技術的・運用的課題があります。このため、有効な意思決定支援情報を導出するところまでを目的に、「認識」の部分は高性能・高精度なディープラーニング技術等を、「予測」の部分に関しては解釈・説明性の高い(結果に至るまでの経緯が分かり易い)マルチエージェントシミュレーション技術等を適用するための研究開発に取り組んでいます。

おわりに
人は、迷える時、悩んでいる時など、偉大な先人達のアドバイスが聞けたらと思うことがあります。例えば、現在の深刻な地球環境問題など、もし昔の偉大な科学者や政治家がいたらどんな技術、どんな政策を考えてくれただろうとか。また、身近な故人(親・祖父母等)が生きていたら悩める時に一言でもアドバイスを貰いたいと思う時があるものです。もし、故人が生きている間に、その人の言動の殆どをデータベース化したAIシステムが構築できれば、そのようなことが実現できるかも知れません。そのシステムに対して、何かしらの質問をしたならば、その人固有の回答を導出できる筈です(当然、その人らしさに近づけるには長期間のデータ取得が必要となります)。但し、このようなシステムを実現するには、プライバシーの問題や倫理上の問題など、多くの課題を解決していく必要があります。
 このようにデータの力で解く近年のAI技術には、技術的側面以外にも多くの課題や問題がありますが、大きな可能性を秘めています。今まで開発・蓄積してきた科学技術や先人達の英知がAI技術によって活かされ、人類が過去の過ちを繰り返さないよう、また世の中がより幸福になるよう期待したいです。